さよならの前に









ずっと一緒に居られると思ってた。
でも時間の流れは残酷で、ゆっくりと、でも確実に二人を変えていった。



『嫌いになった訳じゃないの』



わかってるよ。
僕だってそう。なまえのことを嫌いになった訳じゃない。
言葉で想いを表現しようとすればするほど、その言葉は想いとはかけ離れていく。
だから敢えて何も言わなかった。
ただ、僕の目の前で瞳に涙を溜めているなまえの姿を見たら、愛しさと切なさで胸が張り裂けそうになった。


誰よりも好きだった。
誰よりも愛してた。


どれも本当の気持ち。
頭の片隅にはいつだってなまえがいた。
だけどテニスばかりの日々でなまえには寂しい思いをさせてしまったのかもしれない。
僕の次の人はどうかなまえにそんな思いをさせないでほしい…






なまえを引き止めることはできた。
力尽くでその腕を引っ張って胸の中に抱き寄せることもできた。
でもそれをしなかったのは怖かったから。なまえに嫌われるのが怖かったからだ。


僕は最後の瞬間まで“いい彼氏”を演じていたかった。
後から偽善者と言われようが、結局は僕がそうしたかっただけ。




もう遅かったかな。
言葉もこの手も届かなかった。
笑い声も胸のトゲも思い出がこの目から零れそう。
素直になれない口だから上手に言葉で繋げない。
ただ「好きだよ」だけ伝えたい…



笑顔でさよならなんて出来そうにないよ。
だって僕はまだこんなにもなまえが好きなんだから。
でもなまえの気持ちは僕と同じ場所にない。もうここにはない。




なまえにさよならを告げるために僕らはあんなに愛し合ったのかな…
これが二人の結末と知っても、好きだよってなまえに伝えられたかな…


頭の中で想いが駆け巡る。





ねぇなまえ…
なまえと過ごした日々は忘れないよ。
たとえこの先なまえが僕の知らない誰かと道を歩んでも。


僕はなまえを忘れない。







なまえにさよならを告げるまででいい。
誰よりも傍にいて欲しい。
身勝手な我儘だけど許して欲しい。


そんな二人の結末を知っても、
出逢えてよかったと僕らが想い合えるまで…。







「なまえ」




僕の声で振り返る。




(好きだよ)




言わせて。さよならの前に。









‥fin‥