くま







周助と付き合い始めて二年目の記念日に周助は私にテディベアをプレゼントしてくれた。


茶色いコと白いコ。


二体のくまちゃんは最初私の部屋にいたんだけれど、周助と離ればなれになることが多くなったこの頃、私は白いくまちゃんを周助に持っていてほしいとお願いした。


『白いコを私だと思ってね』


去り際に私は周助にそう言った。
周助はクスッと微笑んで白いくまちゃんを抱きかかえくまちゃんの手を動かした。
それはまるでくまちゃんが私に手を振ってるようで、私も茶色いくまちゃんを動かし手を振った。


「暫く離ればなれになっちゃうね…」

「フフ、大丈夫だよ。いずれ僕がなまえを迎えにいくんだから。そうすればこのコたちも一緒になれるよ」

「…ッ!……周助ってどうしてこう…クサイ台詞をさらっと言えるのかなぁー」

「僕は本当のこと言ってるだけなのに。なまえは照れ屋さんだね」


そうやって私をからかう周助の意地悪な笑顔が大好きだった。




テニスの合宿、バイト、大学の試験…
高校までは一緒だったけれど、今は違う大学に通う私たちはなかなか以前のように会うことができなくなってしまった。
デートもなかなか二人の都合が合わないのでできなかった。


周助に会えない寂しさと、切なさ。
それゆえに高まるフラストレーション。
私は何度も茶色いくまちゃんをぎゅっと抱き締めた。
















そんな日々が続いたある日。
周助から電話がかかってきた。


『明日一日オフなんだ。久しぶりになまえの家に行きたいんだけど、いいかな?』


電話越しに聞こえる優しい声に私は愛しさを感じながら弾んだ声で「勿論」と答えた。







そして今。
周助は私の家にいる。







「最近お互い忙しくてなかなか会えなかったね。周助体調崩したりしてなかった?」

「僕は元気だったよ。なまえは?まさか僕がいない間に浮気とかしてなかったよね?」


イタズラにそう尋ねる周助にムッと唇を尖らせて私は「するわけないじゃん!」と怒ったように言った。
すると周助は「ごめんごめん、冗談だよ」と笑ってカップに入った紅茶を飲んだ。


「なまえが僕のこと大好きなのは知ってるから」

「……周助は?可愛い女の子にいっぱい囲まれたりしなかったの?別にそれは今に始まったことじゃないけど…」

「僕はなまえ以外の女の子は野菜にしか見えないよ?」

「や、野菜って…」

「うん。周りがどんなに可愛いって言ってる子でも僕にとったら彼女たちは野菜なんだ」

「そ、そっか…」


(それはそれでなんだかその子たちが可哀想な気もするけど…)


私がそんなことを思っていると、ふと視界に茶色いくまちゃんが入った。


「…そういえば周助ぇ?最近白いくまちゃんどうしてる?」

「え?ああ、なまえとお揃いのテディベアのこと?」

「うん。ちゃんと構ってあげてる?」

「そうだなぁ…前はよく撫でたりとかしてたけど、最近はあまり触ってないかなぁ…」

「………」


(触ってないんだ…)


「フフ、でもね、ちゃんと『おはよう』とか『おやすみ』って声かけてるよ。なまえだと思ってね」

「…ホント……?」

「うん」


(それはなんか嬉しいかも…)


私が茶色いコを抱きかかえると、周助は目を細めてこのコに手を伸ばした。
そしてふわふわの毛を優しく撫でた。


(周助とくまちゃんってなんか可愛い絵図面かも)


心の中でそう思っていると、不意に周助が私を見て呟いた。




「なまえは?このコに何かしてる?」

「えっ!?」

「……もしかして僕に会えない寂しさ故にこのコのお腹をガツガツと殴ったり…」

「まさかっ!!」

「じゃあドカドカ蹴り上げたり?」

「そんなことしませんっ!!」


私は少々向きになって周助に反論した。
それを見て周助は「ごめん、冗談だよ」とクスクス笑った。


「周助から貰ったこのコにそんなことしないもん…」

「フフ、ありがとう。大切にしてくれて」

「私だってこのコに『おはよう』って声かけたり、」

「うん」

「寝るときは『おやすみ』って言ったり、」

「うん」

「寂しいときはぎゅって抱き締めたり、」

「うん」

「周助だと思って…その、……キスだってするし、一緒に寝たりするもん」

「………」


私がそう言うと、周助は暫く黙ってしまった。
何も言わず、ただジッとくまちゃんを見つめてる。


「…? 周助…??」


不安になって周助の名前を呼んでみると、周助は小さく「ずるいな…」と呟いた。


「え?」

「君はずるいね。僕のなまえからそんなにたくさんの愛情を注がれて。なんだか悔しいや」

「え?え?」

「僕でも滅多になまえからキスもらうことないのに。君はなまえからキスしてもらって、抱き締められて一緒に眠るんだよ?そんなのずるいや」

「……ぷっ…周助ったら」



このこの!と茶色いくまちゃんの頭を軽く叩く周助。

くまちゃんも可愛いけれど、このコに嫉妬する周助の方が何倍も可愛いと思ったのは。
私だけの秘密です。











(ねぇなまえ、僕にはキスしてくれないの?)(えっ…)(僕も寂しかったんだけどなぁ…)(もー!周助のバカ!)









くまちゃんを抱き締める君も可愛いけれど、
たまには僕も、抱き締めて?甘えさせて?







‥fin‥