もしオタ。




君はどっちを選ぶんだろうね。





もしオタ 〜もしも僕の彼女がオタクだったら〜





久々の休日。
僕は彼女のなまえとお家デート真っ最中。
他愛のない会話をして、時々指を絡めて甘い雰囲気になり、隙を見てなまえの頬にキス。
そんな僕の行動に顔を赤らめたなまえは上目遣いで僕を見る。
後は想像にお任せするとして。
そう、すべては僕のシナリオ通りに上手く進む、はずだった。

だがしかし、今の状況はどうだろう。
まるで僕はなまえの視界の外。
古い言葉で言うとアウトオブ眼中。
さっきからなまえは携帯アプリに夢中なのだ。





「……ねぇ なまえ」

「んー なに?」

「今日の分終わった?」

「まだまだ。ちょっと待ってて」





繰り返される会話。
なまえは今流行りの携帯でイケメンと恋愛することができるシミュレーションゲーム(所謂乙ゲー)に夢中だ。
ほんの数分前までは僕とまったり紅茶を飲んで楽しく過ごしていたのに。
20時間のプレイ制限が過ぎたから、と一言僕に言うと携帯を取り出しピコピコとゲームを始めてしまった。
そして先程の会話に至る。


「……まだ?」

「ちょっと待ってって。今一番の山場なの」

「………」





「っあ〜!やばいっ!!」

「? 何が?」

「選択肢!“好きと言う”“抱きつく”“キスをする”どれも際どすぎてわかんない〜!!!!!!」

「………」

「周助はどの選択肢がいいと思う!?」

「別に…どれでもいいんじゃない」

「どれでもいいなんてことないっ!だってこの選択肢でスーパーハッピーエンドかただのハッピーエンドかに決まるんだよ!?ラストスチル出るか出ないか決まるんだよ!?」

「………」

「ここは素直に好きと言うべきか、抱きつくべきか、それとも大胆にキスするべきか…。もー!!どれがいいかな〜、昴さんの性格を考えると…」


真剣に携帯と睨めっこして選択肢を考えるなまえ。
僕のテンションは下がる一方。

大体僕以外の誰かに好きと言ったり抱きついたり、況してやキスするなんて…なまえってば何考えてるの。
たとえ相手が二次元の人だとしても僕としては嫉妬の対象になる。
なまえが夢中になっていいのは、僕だけだよ。



「ねぇ なまえ」

「ここは素直に好きと言って…」

「いい加減構ってくれないと僕も寂しいんだけど」

「あー うん。もうちょい待ってねー。…よし、選択肢はこれで決まり!」

「なまえ、聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。ッあーーっ!!!!!!!!」

「!? どうし…」

「昴さんが…!!昴さんが……!!抱きしめてくれた…!!!!!きゃーっやばっやばっ、かっこいい!!超かっこいい!!『俺をこんな気持ちにさせるのはなまえ、おまえだけだ』だってっ!!!!!!!!やだっ!!超照れるっ!!うはー!!!!!!」

「………」

「これはもしやスーパーハッピーエンド…?うあーっ今日はここまでかぁ…明日で最後ね。うん、きっと大丈夫だ。ああー次のプレイは20時間後だからまた待たなくちゃ…」

「………」

「周助ぇー 終わったよぉー」

「………」

「って、周助何処行くの!」


僕はすたすたと二階に上がる。
なまえは無口な僕に若干戸惑ってるみたいだけど。
僕を怒らせた罪は重いんだからね。
簡単に許してなんかやらない。

「周助ぇ?周助ぇー??な、なんか怒ってる…」

「………」

「ごめんってばー。ちょっとゲームに夢中になりすぎて周助構ってやれなくて…」

「もういいよ。君は僕なんかよりその携帯の中の彼がいるから大丈夫なんでしょ?」

「え、周助…もしかして妬いてる?」

「だとしたら何?僕だって男だよ?」

「いやいや待って。だって相手は二次元…」

「関係ないよ。なまえの視線を夢中にするものはなんだって僕の敵なんだから」


ふいと顔をそっぽに向けてベッドに座る。
呆れたかい?
でもそれくらい僕はなまえのことが好きだってことなんだけど。
なまえは携帯を握り締めてドアのところに立っている。


「僕とそいつ、なまえはどっちを選ぶの」

「え、選ぶとか…そんなことできないよ!」

「へぇ…僕はなまえに選んでもらえないんだ」

「だって…萌えって大切じゃん!!!!!!」





萌え…。





「周助はそういうのないの?アイドルが可愛いとか、ポスター貼るくらい好きだとか!手は届かないけどすごく好きで譲れないものってないの!?」

「なまえ」

「あくまで私は二次元は二次元。現実は現実って区別つけてるつもりだよ?私は二次元の萌えがないと生きていけないの!所謂オタクなの!」

「なまえ…」

「周助のことは好きだよ。大好きだよ。でも私には萌えはエネルギー源なの。生命力なの。……こんな私、周助は嫌い?」



今にも泣きそうな表情で僕に訴えてくるなまえ。

……嫌いなわけないじゃない。

僕は自分に素直な、そんななまえが好きなんだから。


「……嫌いじゃないよ」

「周助ぇー」

「でも、もうちょっと僕を見てほしいかな。二次元といえどなまえを夢中にさせるのは僕でも妬けちゃうから」

「わかったー」



周助大好きっ!!

そう言って抱きついてくるなまえ。
可愛いなぁ、やっぱり僕はなまえが好きなんだと思う。
たとえ彼女がオタクであっても。
オタクな彼女を引っ括めて僕はなまえが好きなんだ。













「なまえ…」

「あ、ちょっと待って!メール来た!」

「誰から?」

「昴さん♪」

「…………」










(まぁ 僕はそんななまえが大好きなんだ)









‥fin‥