弱った夜は人肌が恋しくなるものです
あり得ない。
ブルッと寒気がしたのは今から一時間前。 これはもしや…?と思ったけれど風邪に対して安易な考えを持っていた私はその後風呂に入り髪も乾かさず横になっていた。
じわじわとだるくなる身体。 目の奥が、身体が、息が、熱い。
熱いはずなのにそれでもぶるぶる震える私の身体はとうとうおかしくなってしまったのだろうか。 頭がずきずきガンガンして、くしゃみも鼻水も止まらない。 熱を計る気力すらなくて、私はただベッドの上で丸くなっていた。
(ああ…私、もうだめかも…)
熱でおかされた思考回路はもうショート寸前。 まるでこの世の終わりかと思うくらい目の前が真っ暗になる。
(こんなことなら…――。)
周助にもっと優しくしてあげるんだったな…。 いつも照れ臭くてそっけない態度しかとれなかったけど。 もっとラブラブしとくんだった…。
後悔の念が後をたたない。
「ううー… 周助ぇー…」
コードを引っ張り、携帯を手繰り寄せて。 私は最後の力を振り絞ってメール画面を開いた。
その後のことは、覚えてない。
ピチョン...
額に冷たい布が置かれた感触がした。 私は重たい瞼を必死に開けた。 目の前には……
「しゅう、すけ…?」
私が名前を呼ぶと、周助は振り返った。 普段の余裕いっぱいな感じはそこにはなく、ちょっと焦っている感じの周助がいた。
「なまえ…」
「ふえ…っ 周助ぇ…」
周助の顔を見れて安心したのか目から大量の涙が出た。
「なまえ、ほら、泣かないの」
「だって…だって…ぇ、もう二度と周助に会えない気がして……」
「全く、大袈裟だな、なまえは。こんなんで死ぬ訳ないだろ?もっとも死なれたら困るけど」
「周助ホントに来てくれた……ゆ、夢じゃないよね?」
「本物。そりゃああんなメールが来れば誰だって驚くよ。ああ…合鍵持っててよかった…」
「あんな、メール…?」
私はクエスチョンマークを頭に浮かべ、周助に尋ねる。
「覚えてないの?」
「―――うん。」
「まぁ無理もないか。だってなまえ、今38度以上熱あるもんね」
「38度…」
「市販の薬だけど買ってきたから飲んで?早く対処すれば治りも早いよ」
「周助ぇー」
「はい、お水」
私は起き上がり、水と薬3錠を受け取り一気に飲んだ。 まだぼーっとする頭。 身体も鉛のように重たい。 だけどさっきのような寒気はなく。 ただ熱ですべてが熱かった。
「ふぅ…これで漸く一安心だね」
「ごめんね 周助」
「何言ってるの?困った時はお互い様でしょ。それが最愛の彼女なら当然だよ」
にこっと微笑む周助が神様に見えた。 私は周助の腕に抱きつき、甘えた声で言った。
「ねぇ 周助…、今夜は一緒に…」
「いるよ」
「隣でずっと手握っててくれる…?」
「クスッ 今度は僕が風邪ひきそうだね」
笑った後、周助は耳元で「いいよ」って言ってくれた。
周助が私の手をぎゅっと握って、反対の手で私の身体をぽんぽんとあやしてくれた。 私はまるで赤ちゃんに返ったようにその声に、リズムに、身を委ねて瞳を閉じた。
時刻はAM3:00を回ったところだった――。
*--*--*--*
To :不二周助 Sub:件名なし 本文:
周助来て。死にそう。
*--*--*--*
◇
*--*--*--*
From:不二周助 Sub :件名なし 本文:
今行くから。
*--*--*--*
次の日携帯を見たらこんなメールがあった。 きっとお互い余裕がなくて。 切羽詰まってたんだろう。
だけどなんだか心が温かくなった。 真夜中なのに飛んできてくれた周助。 私のために寝ずに看病してくれた。
改めて周助が大好きだと思えた、そんな一夜。
ありがとう 周助。
‥fin‥
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