あなただけ見つめて





きっとこれは世界の果てにも似た光景――。





あなただけ見つめて








あなたと出会うまで。
世界はモノクロで色のないものだと思ってた。















「何考えてるの」





周助の顔が目の前に映る。
私はゆっくりと視線を彼の瞳に合わせ、にこっと微笑む。


「周助と同じこと」


ベッドの上で、彼に抱き締められながらそう答えた。
周助は私の首筋に唇を這わせ、紅い華を咲かせる。
チリッと痛むそこはすぐに熱をもつ。
首筋、鎖骨、胸――。
紅い跡が増えていく。


「だめだよ周助…、そんなところに跡付けちゃ。」

「うん?」

「見えちゃうでしょ?」

「見えるようにわざと付けてるの」


チュッ、チュッ、と周助の唇が私の身体に降る。


「嘘つく子にはお仕置きが必要だからね」


私の頬に周助の手が添えられ目と目がぱちりと合った。
逸らすことさえ許されない。
真剣な表情と、綺麗な二つの瞳。


「で?ホントは何考えてるの?」


確かめるように再び尋ねる彼。


「だから周助と同じことだよ」

「…僕はなまえの自由を奪って今すぐなまえとひとつになりたいと思ってるけど?」

「うーん…ごめん、やっぱりちょっと違うかも」


私はクスッと笑う。
すると周助は拗ねたように唇を尖らせた。


「ウソ。冗談。拗ねないで?」


今度は私が周助の頬に手を伸ばす。
さらさらの蜂蜜色の髪が指先に当たる。


(―きっと私と周助とでは…同じ世界を生きてるようで違う世界にいる)


「いつでも私は周助のことばっかり考えてるから」


(二人の目線が、ほんの少し違うだけ。)




こんなに誰かのことで頭がいっぱいになるなんて思ってなかった。
自分のことで精一杯だったのに。

でもたくさん想い過ぎて怖くなる。

この胸にある想いが、そっくりそのまま伝わればいいのに。
繋いだ先から伝わることはない。

言葉ひとつ飲み込むたび蓄積される想い。
辿り着く先が見えない暗闇の中にまた一人、閉じ込められたみたい。





「ほらまた」





「えっ?」




周助が私の顎を持ち上げる。


「僕以外のこと考えてる」

「そんなこと…、」




「正直いうとなまえがあまり他のことに気を取られてると嫌なんだ僕」


“たとえ考えてるのが僕のことだとしても。”

周助はそう呟いた。






ああ…だから私はあなたから離れられなくなるんだ。
思考回路が周助でいっぱいになるんだ。


「本物が目の前にいるんだから余所見しないで」

「しゅ…、」


そうして二人でベッドに堕ちる。
熱を分かち合う。

周助の指先が、私の敏感なところに触れる。
ビクッと奮える身体はまるで自分のものではないよう。
奥へ、もっと奥へ。
周助を誘う私の身体。







「…っ…、なまえのナカ熱い…」

「周助も…っ」





周助以外見えなくなっちゃえばいいのに。




「あっ!ッアぁん!」

「ココ?」

「あっ ぅん…っ、ソコ…ッ」


的確に私の弱いところを突く。
もう何も考えられない。




「ぁ…だめ…ッ あんっ…」

「なまえ…っ」






「ァあァ…ァッ…!」






嬌声が二人だけの室内に響き渡る。






「はぁ…ぁは…っ」

「は… 大丈…夫?」



「う…っん…」

「ごめん…」




ズクッ ぐち…っ





馴染んで、溶け合って。
愛情と快感の相乗効果。




「あッ はぁん…っ」

「なまえ…なまえ…」





どうすればいいのかな。

あなたなしじゃもう生きられない。







「周助…ぇ!」

「傍にいる…から…、僕が、なまえの傍に…いるから…っ」






ホントはわかってるんだ。
私も周助も。

ひとつにはなれないこと。




だけど身体を重ねることで一瞬でもひとつになれる気がするから。
幻でも錯覚でもいい。
あなたと同じ世界にいられるなら――。





なんだってよかったんだ。













‥fin‥