愛情表現






私のこと、好き?大好き?愛してる??





愛情表現





時々ふっと思うことがある。
周助は私のことどのくらい好きなんだろうって。
そんなの目で見てわかるものでもないし、量りにかけられる訳でもないから、言葉と行動で示してくれないとわからない。

それに周助は他の人よりかっこいいし。
油断してるとすぐに女の子がたかってきちゃうから、私も気が気じゃない。

私なんて……未だに周助が数ある女の子の中から私を選んでくれたことを信じられずにいる。
だって夢見てる気がするんだ。
こんな人、普通私みたいなどこにでもいる女、選ぶ訳ない。
自分で自分を否定する。そして自己嫌悪。
私はこの夢がいつか醒めてしまうんじゃないかって、不安なんだ。




「なまえ?」


周助の声でハッと現実に戻される。
目の前には周助の整った顔。
私の顔を覗き込み、彼はクスッと笑った。


「ぼーっとしてたみたいだけど、考えごと?」

「う、うん…ちょっと」

「なに?僕でよければ話聞くけど?」


(いや…あなたのことですってば!)


心の中で軽く突っ込みを入れ、私はその言葉をぎこちない笑顔で交わした。
そして再びゆっくりと歩き出した。


だいぶ日も伸びた夏の帰り道。
いつもは笑いも絶えないが、今日は沈黙ばかりが続く。
口を結んだままの私。
周助はそんな私を見て苦笑する。
無理に聞いてこないのが周助の優しさだ。
私は彼の優しさに甘える。


「そういえば…今日の昼休み呼び出されたんだよね」

「へぇ…誰に?…手塚くん?」

「ううん。3組の女の子」


ああ…毎度の告白か。
私は気持ちがズンと重くなるのを感じて下を向いた。
でも次の瞬間には笑顔で「そっか!可愛い子だった?」なんて周助に言う。


「周助は相変わらずモテモテだね!」

「でも好きなのはなまえだけだから」


綺麗な笑顔でそう言う周助。
だけど信じられない自分がいる。
嬉しくないと、叫んでる自分がいる。
周助の優しい愛の言葉が、今の私には棘のように刺さる。
チクチク痛い。胸が痛い。


「……それ、本当?」


小さな声で呟いた。
私の言葉に周助が驚く。


「なまえ?」

「…っ、周助…私のことホントに好き?」

「好きだよ」

「じゃあどのくらい好き?テニスより好き?サボテンより好き?裕太くんより好き?」

「………」


暫しの沈黙。
それが酷く長い時間に感じられた。
立ち止まる周助を追い越し、私はフッと笑って歩き出す。
なまえ!と後ろで声がした。
だけど私は振り向かない。

私は帰り道にある公園にふと立ち寄った。
夕暮れ時ということもあり、公園にはたくさんの犬と飼い主が戯れていた。
その様子をじっと見ていた私。
周助も後から追い付いて私の隣に立つ。


「――私も周助も犬だったらよかったのに…。」

「えっ?」


私の呟きに周助は反応する。
びっくりしたような顔の周助。
目を真ん丸にしている。


「だって犬なら尻尾があるじゃない。その人のことどのくらい好きか尻尾の振り具合ですぐにわかるもん。周助も尻尾があれば私のことどのくらい好きかわかるのに…。」

「なまえ…」

「私だって周助のこと誰よりも好きだから尻尾たくさん振ってアピールできるのに…。どうして尻尾がないんだろう…」


口を尖らせてそう呟く私。




「………ぷっ…」




そんな私を見て数秒後、周助が吹き出す。


…今笑う所じゃないよね?
私はキッと周助を睨み、今度は頬を膨らます。
すると周助は私の体をそっと抱き寄せ、優しい眼差しで見つめる。
何もかも見透かされてるような、そんな瞳。


「僕は犬の恋人なんていらないんだけど?」

「………」

「それに僕がどのくらいなまえのこと好きかっていうのは凄く難しいんだ。言葉だけじゃとても言い表せないよ」

「……周助…」

「ねぇなまえ。好きは好きじゃダメ?なまえを好きな気持ちに僕はこれっぽっちも嘘はないんだ」

「……うん」


私は頷く。
また私は周助の優しさに甘えてしまった。
そしてさっきの言葉を思い出し、凄く恥ずかしくなった。
改めて思うとバカな発言だった。
一人後悔していると、周助の唇が額にチュッと降りてきた。


「しゅ、周助!?」

「可愛い子にはご褒美あげないと」

「え!な、なんで?」

「さっきの犬になりたい発言…なまえすっごく可愛かったよ」

「そんなことないよ…私バカじゃん…」

「次可愛いこと言ったら唇にするから」

「はいー?」


私は目を大きく見開かせ、周助を見つめる。
周助は私を抱き締める力を強くして、私を腕の中に閉じ込める。
公共の場でこれはかなり恥ずかしい。


「しゅ、周助…っ」

「なんでなまえはこうも可愛いのかな…。ずるいよ…」

「ずるいのは周助でしょ!……なんでそんなにかっこいいのよ…。悔しいよ…」


私は周助から顔を逸らす。
すると周助は左手を私の頬に添えて自分の方へ向かす。
今の周助は――絶対的。
逆らうことを許さない。


「ほら、また可愛いこと言った」


低い声で囁くと。
いつもより乱暴な口付け。
グッと後頭部を抑えられ身動きがとれない。
口腔で暴れる周助の舌。
ふわり、その場に崩れ落ちそうになる。
それを周助の腕が支える。
酸欠になりそうになり、頭がクラクラしてきた頃。
私は長いキスから解放された。


「しゅう、すけ…」

「なまえのこと、好きだよ」


涙で潤んだ私の瞳が映したのは……周助の真剣な顔。
思わず息を呑んだ。


「今は“信じて”なんて言わない。いつか、言葉でなんか言わなくても僕の気持ちがなまえに伝わるようにしてあげるから。不安ならそれでいいよ。そんななまえも僕は大好きだから、ね?」



周助の告白に、私はまた視界が滲んだ。


どんな私も受け入れてくれる周助。
そのことが、ただただ嬉しい。


伝えたくて。
この想いを周助に届けたくて。


私は背伸びして彼の唇に自分のそれを重ねた。













‥fin‥