星降る夜に…
瞳をそらさないで。 優しく抱き締めてあげる。
星降る夜に…
冬の夜空はとても綺麗だ。 空気が澄んでいて都会でもキラキラと瞬く星を見ることができる。
僕は部屋のテレビで何気なくニュースを見ていた。 そしてアナウンサーの言葉に動きを止めた。
「流れ星」――。 それは数日後に訪れるある星座の流星群の話題だった。 その日の天気は晴れ。 とても綺麗な夜空で星を見るには絶好の機会となるでしょう、とのことだった。
すぐに浮かんだのは恋人の名前。 なまえはこういう話が好きだった。 もしこのニュースを見ていたらきっと…
プルルル…プルルル…
携帯が鳴り響く。 相手はもちろんなまえから。 僕は予想通りと微笑んで通話ボタンを押した。
「もしもし?」
「あ!もしもし、周助?」
息が弾んでいるなまえ。 よほど慌てて電話してきたのだろう。 僕はクスッと笑いなまえの言葉を待つ。
「うん。なまえ、どうかした?」
「あのね、今ニュース見てたんだけど…流星群が明後日くらいに見られるんだって!」
「クスッ 知ってる」
「えッ!?知ってるの?」
なまえはビックリしたような声を出して僕に言う。
「僕もそのニュース見てたから。なんとなくなまえが言うことわかってた」
「なんだぁー…一番に周助に知らせたかったのに」
「ごめんね?なまえ」
「ううん、大丈夫。ちょっと残念だっただけ」
「ねぇ なまえ。その日空いてる?」
「えッ?」
僕は一息ついて再び口を開く。
「星の降る夜、僕と一緒にいてくれる?」
「いいの!?」
なまえの笑顔が電話越しから溢れてきそうで僕はまたクスッと笑ってしまった。 なまえの行動が可愛くてどうしようもない。 こんな僕はきっと末期なんだろうな。
「いいの…ってなまえは僕と一緒にいたくないの?」
「いたい!一緒にいたいです!」
「じゃあ決まりね」
「うん!」
なまえの喜んでいる顔が想像できて僕も幸せな気持ちになる。 なまえのことを想うだけでこんな幸せな気持ちになるんだから、僕はなんてめでたいやつなんだろう。
窓の外をふと眺めてみると、とても綺麗な夜空が広がっていた。
◇ ◇ ◇
流れ星が降るという夜、なまえは僕の部屋にいた。
「ねぇ 周助。ここから流れ星ちゃんと見えるの?」
なまえは不服そうに僕に尋ねる。 なまえはどうやら公園や広場に行って流れ星を見ることを想像していたのだろう。 だけど実際いるのは僕の部屋。 いつもと何ら変わりのない場所で果たして流れ星が見えるかどうかなまえは不安なのだろう。
「だってなまえ、考えてみてよ。今の時期外はすごく寒いんだよ?風邪でもひいたら大変でしょ?」
「でも星が…」
「大丈夫。僕の部屋の窓は大きいし、電気を消せば――」
パチンと部屋の電気を消す。 真っ暗になった部屋。 輝く星が明かりとなって部屋を薄く照らす。
「わぁー」
「ほらね。ここからでも星は十分見えるでしょ?」
「うん!」
なまえはその大きな瞳に星だけを映して目を輝かせる。
「周助、綺麗だね…」
「うん。すごく綺麗だ」
「まだ流星群見えないね」
「そのうち見えるよ」
なまえの肩を抱き、僕はなまえの耳元で囁く。 なまえも僕の胸に体をそっと預け、密着する。 時折風が入り込み、なまえの香りが鼻を掠める。 甘くて落ち着く僕の大好きな匂い。 君の体温が温かい。 君の香りが和ませる。 君の存在が愛しい。
こんなになまえが近くに感じられるなんて今夜はなんだか特別に素晴らしい夜のように感じられた。
「ねぇなまえ 」
「なぁに?」
「古代の人たちは夜空に輝く星を見て星座を描いたんだよ」
「? うん、そうだね」
「流星群が見えるまで僕たちも二人だけの新しい星座を描かない?」
そう言うとなまえは「素敵!」と小さく叫んで僕の首に腕を回した。
「周助って時々ロマンチストだよね!」
「時々…ていうか僕は元からロマンチストなんだけど」
「臭いセリフも周助ならかっこよく聞こえちゃうんだよね!」
笑いながら今度はなまえが僕の耳元で囁く。 僕は苦笑してなまえを抱き締め返す。
そうして空に揺れる星屑に線を足して、この夜はたくさんの二人だけの星座を描いた。 名前の付いてないような小さな星も目印になる明るい星に繋いだ。
なかなか現れない流星群。 なまえの声が小さくなりやがてそれは寝息に変わった。 僕の胸で眠るなまえ。 「風邪ひくよ?」と言ってみたけど、夢の中のなまえにはもう届かない。
「もうそろそろ流星群が見える頃だよ?」
「…ん……」
「あ…!流れ星…」
僕は最初の流れ星を見つけた。 それを後に次から次へと流れ星が溢れてくる。 まるで星が空から降ってくるようだった。
「なまえ…なまえ…起きて、流れ星だよ」
「…う…ん……流れ、星……?」
「ほら、見て?」
僅かに目を開けたなまえ。 無数の光の屑が流れていてなまえは慌てて目を擦る。
「すごい…!こんなにたくさん…!」
「まだ始まったばかりだよ」
「周助!願い、願いごとかけなくちゃ…!」
「茜」
「しゅう……」
そっと茜の唇に落としたキス。 なまえは少し驚いたようだけど、すぐに腕を僕の背中に回した。 柔らかいなまえの唇を堪能するように長く、深く口付けをした。
「…ハァ……」
唇を離すと僕は微笑んでなまえに言った。
「僕の願いはなまえとずっと一緒にいること。どんな時もなまえを支えて守りたい」
「周助…」
「なまえの願いは?」
試すようになまえに言うと、なまえはにこっと笑いもう一度僕に口付ける。
「私の願いも周助と同じ。ずっと周助のそばにいたい。一緒にいたい」
僕と目が合ったなまえは照れくさそうに笑い、耳元で囁いた。
「周助と願いが同じでよかった」
「僕も…」
もう一度窓の外を見ると、まだ星がたくさん流れていた。 光っては消えていく星たち。 儚い一生を終えた星たちが辿り着く場所は宇宙の果て。
僕はこの願いが宇宙の果てまで届くように祈ってる。
言葉がなくても伝わるから。 僕らの想いを乗せて星は輝く。
君と見た流れ星は 永遠を夢見る僕の願いをきっと届けてくれる。
そう信じているよ。
‥fin‥
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