またあした






ずっと一緒に、いれたらいいね。





また あした





「周助ぇー!」


あたしの声で前方にいた彼が振り返る。
にっこりと、あたしを見て微笑む姿はそこら辺のアイドルなんかよりかっこよくて。
あたしは素敵だなって思うんだ。


「なまえ、」

「今日は部活早く終わったんだね」

「うん。大会前だし、体調管理しておけって手塚が早く終わらせてくれたんだ」

「へぇー!手塚くんもいいトコあるー!」

「クスッ そうだね」


そうして笑い合った後に。
ふと周助を見上げた時に視線がぶつかってにこっと目を細める周助。
あたしが思ってることもすぐに見抜いてしまう蒼の瞳。
あたしはこれに弱いんだ。


「一緒に帰ろっか」

「うん!」





周助と帰るのは久しぶりだった。
というのも、周助は夜遅くまで部活をしていることが多く、「待たせるのは悪いから」という理由であたしが先に帰ってしまうからだ。
ホントはいつも周助と一緒に帰りたかったけど、周助に迷惑かけたくなくて。
あたしは素直に頷いた。
だけど今日は違う。
まだ夕暮れが見える明るい時間だ。
いっぱいお喋りして、寄り道して。
周助と目一杯楽しんで帰ることができる。
ただの帰り道なのに、あたしの心は弾むばかりだ。


「そんなに僕と帰るのが嬉しい?」

「うん!だって久しぶりだよー?周助はあたしと帰れて嬉しくない?」

「嬉しいに決まってるじゃない」

「よかったァー」


どちらともなく手を繋ぎ始めて、あたしの右手は温かくなる。
その温もりが愛しくて、あたしはギュッと周助の左手を握った。
離さないように、離れないように。


「なまえ、今日の体育転んだでしょ」

「え゙、見てたの?」

「窓からチラリとね。なまえが一生懸命やってる所を目に焼き付けておこうと思って」

「あたしはいつも一生懸命だよー」

「そう?竜崎先生の数学の時間はほとんど寝てるって噂だけど?」

「あー、それは言わないでー」


周助がクスクス笑う。
周助の悪戯に笑った仕草も、いつもクスッと微笑むその癖も。
全部、周助らしいと思う程好きになっていって。
彼の中で嫌いな所はないんじゃないかって思えるんだ。




ほら。何をする訳じゃなくても、こんなに愛しいと思える時間が今ここに流れていくよ。
それは傍にいるのが君だから。
何でもない帰り道もパッと華が咲いたように明るくなる。


「ねぇ 周助」

「何?」

「ちょっと耳貸して」

「?」


背の低いあたしに合わせ、周助は少し屈んで耳を向ける。


『ダ イ ス キ』


そう伝えると、周助は目を真ん丸くして固まった。
だけどすぐに口元を緩めてあたしを抱き締めた。
ほんの一瞬の出来事。
今度はあたしの方が目を丸める。


「突然なまえから愛の告白がもらえるとは思わなかったな」

「ちょっ…周助!ここッ道の真ん中!」

「大丈夫。ここは車も人通りも少ない所だから邪魔にはならないよ」

「そういう意味じゃなくて!」


あたしはあたふたと慌てるけど、周助は穏やかな表情であたしを抱き締めたまま。
まさかあたし、墓穴掘った?


「ねぇ なまえ」

「んー?」

「キス、していい?」


――え?

と言おうとした瞬間、あたしの唇は周助のそれによって塞がれていた。
温かい、周助の温度が唇から伝わってくる。
チュッと音を立てる感じで何度も何度も触れるだけのキスを繰り返す。
されているこっちは恥ずかしくて堪らない。


「しゅーすけッ!」

「だってなまえが可愛いんだもん」

「周助はかっこいいけどさ、そういう所は子どもっぽいよね」

「あ、言うねー。これは僕の愛情表現なんだけど」

「それはそれは。どうもありがとうございます」

「クスッ 照れちゃった?」


周助のすごい所は恥ずかしい台詞をためらいもなく言える所だと思う。
あたしはダメだ。
さっきの「ダイスキ」で精一杯。
だけど周助はあたしの気持ちの全部を受け止めてくれる。
だからあたしはこうしていられるんだ。

いつも伝えようと思えば思う程。
喉の前まで出かかった言葉はちっぽけなモノのような気がして言えなくなってしまう。
いつも君があたしにくれる愛の心地。
そのお返しが今、したいんだ。


「周助」


あたしは呼ぶ。
周助の名前を。
何よりも愛しい響きを。
今日なら大丈夫かな、って思っても。
君を前にすると恥ずかしくてまたまた言えそうにはない。


「何?」

「何でもなーい!」


だけど気付いてほしいんだ。
君が思うよりも、ずっと君を大事に思っていること。
ホントのホントはきっと、あたしだけしか知らない。






「あ、もうお別れだね」


短い帰り道はあっという間に終わってしまう。
また 明日、会えるけど。
今はこの距離が淋しい。


「なまえ、また明日」

「うん」


周助の背中がだんだん遠くなっていく。
あたしはもやもやした気持ちを伝えたくて。
周助に今、伝えたくて。
ただ大きな声で周助の名前を呼んだんだ。


「周助ッ!」

「?」


周助は振り返り、あたしを見つめる。
思いの丈を、全部吐き出してしまえ。


「あたし、明日も明後日も…。これからもずっと周助と一緒にいたい!」


周助は目を見開き、次の瞬間、眩しいくらいあたしの大好きな笑顔で答えてくれた。


「僕も、なまえとずっと一緒にいたい」

「じゃあ…これからもあたしの傍にいてくれる――?」

「勿論」


その言葉は永遠でも、何でもないけど。
周助の言うことだったら信じてみてもいいよね?







平凡な当たり前をずっとずーっと大事にできたらいいね。
君がいて、あたしがいる。
相も変わらず今日も愛してると思うこの気持ちも。
一人で心の中に溜め込むのは勿体ないから君に分けてあげる。


「周助 バイバーイ!」

「バイバイ なまえ」


だから思いきり元気に手を振るよ。
君のいる明日に早く会いたいから。




夕暮れが映し出した影を見つめながら。
そんなことを一人、思ったんだ。













‥fin‥