MajiでKoiする5秒前






恋が始まる予感がする





MajiでKoiする5秒前





梅雨って嫌い。
ジメジメするし、微妙に暑いし。
よく雨降るし、髪型決まらないし。

あたしは教室の窓から空を見上げ、ハァーと深いため息をついた。
ザーッと雨が降っている外。
今朝の天気予報では雨降らないって言ってたんだけどなー。
やっぱり梅雨だ。
傘持ってくればよかったと今頃後悔。

濡れて帰るのは嫌だったから、とりあえず雨が止むのを祈って教室で待機。

誰もいない、雨の日の放課後の教室はどこか不気味だ。
暗いし、誰の声もしないし。
廊下の明かりが更に不気味さを増す。


「あ゙ー!もう!!」


あたしの怒りのボルテージはそろそろ最高潮に達しそうだ。


待っても待っても。
ザーザーザーザー。

雨は一向に止む気配ないし。
つかだんだん雨脚が激しくなってる気がするし!
すべては自分が傘を持ってこなかったことが原因だけど。
今はとりあえず、この天気に当たりたい。
梅雨なんて嫌いだー!



こうしている間にどんどん時間は過ぎていって。
気が付けば午後五時。
あー、よいこは家でテレビ見てる時間だよ。
あたしは帰宅部なので、授業が終わったら即行家に帰る。
だからこんな時間まで学校にいることが奇跡。
…きっと明日も雨だな。




いつまで経っても雨は止みそうになかったので、あたしは痺れを切らして下駄箱へ向かった。
あーあ、この雨の中濡れて帰りたくなかったんだけどなー。
あたしのテンションは下がる一方。

すると下駄箱の近くに傘立てが置いてあるのがあたしの目に入った。
こんな雨の日に傘置いてく奴なんかどこにいるんだよ。
突っ込みたくなる衝動を抑えてあたしは傘立てに向かう。

黒いコウモリ傘が一本。
ちょっとぼろくて所々穴が開いてるような傘だったけど、この際しょうがない。
傘クンもこんな所に置き去りにされるより、誰かに使われた方が本望だろう。


あたしが使ってやるよ。
そう思って傘に手を伸ばそうとした時――。













「――みょうじ?」



聞き慣れた声がして、あたしは思わず傘に伸ばした手を引っ込めた。
振り返るとそこには訝んであたしを覗き込むクラスメートの姿があった。


「ふふふ、不二!」

「どうしたの、みょうじ。そんなとこに突っ立って」

「いや、あの…あたしの傘何処かな?って…」

「盗まれたの?」

「へ?あ、はは…そう、みたい。」


たった今この傘盗もうとしてたのは何処のどいつだよ。
心の中で自分に突っ込んであたしは歪な笑顔を不二に向けた。
とても違和感のある表情。
きっと鏡で見たら変な顔をしているに違いない。




不二とはクラスメートってだけで特に話したことはなかった。
クラスの女子は休み時間の度に不二の席へ向かい、我先にと彼に話しかけるけど。
なんてったって学園のアイドルだし。
顔よし、性格よし、頭よし、おまけに運動神経もよしと来たら落ちない女子はいないだろう。
全く、神様って奴は不公平だな、と彼を見ると思わずにはいられない。

「何?僕の顔見て百面相?」


不二はあたしを見てクスクス笑う。
…女の顔見て笑うって、すごく失礼じゃないか?


「ごめん。変な顔して。でも元からだから気にしたら負けだよ」

「フフ…みょうじって面白いね」


そう言って不二は鞄の中から折り畳み傘を出してあたしの目の前で開いた。
紺色の傘。
不二はあたしと目を合わせると悪戯っ子みたいに、にこっと笑い、試すような口調で言ってきた。


「入りたい?」

「え?」


あたしは思わず聞き返す。


「このままだとみょうじ…濡れて帰ることになるし、見捨てる程僕は鬼じゃないよ」

「いいのッ!?」


あたしはキラキラとした眼差しを不二に向ける。
やっぱりいい奴!
あたしは不二を見直した。


「あ、だけど条件。みょうじが僕に“不二様、私をあなた様の傘に入れさせて下さい”って言ってくれたらいいよ」

「は?」


にーっこりと微笑んでさらりと言う不二。
その笑顔は天使なんだけど言動は悪魔。
あたしは目が点になり、固まる。
そして猛反論。


「なんであたしが不二にそんなこと言わなきゃいけないの!」

「だって当たり前じゃない?傘に入れさせてもらうなら頭下げるのは」


こいつ…あたしをからかってる。
完全にあたしで遊んでる。
実は天使の顔した悪魔だったんだ!


「不二クン、そういうのは普通、好意で入れてあげるもんじゃない?」

「はは…」


はは…じゃねぇよ!
今思った。
わかってたけど再確認。
あたしはこいつが苦手だ!



でもいつまでもここにいる訳にはいかなかったので、結局あたしが折れて不二の傘に入れさせてもらいました…。
なんか癪に障るなぁ。









「絶対みんな騙されてる」


あたしは思わず呟いた。
不二はクスクス笑い「何が?」と尋ねてきた。


「不二のこと。みんな悪魔のような性がある不二を知らないんだ」

「悪魔とは失礼だなぁ。僕はいつだって親切なのに」

「この偽善者め」

「え?今何か言った?」

「…何でもありません。」





でも気付いたんだ。
あたしと不二は帰る方向が違うのに、遠回りしてわざわざあたしの帰る方面に付き合ってくれていること。
あたしを優先して傘差してくれてるから、自分が濡れてしまってること。

やっぱり不二っていい奴なのかもしれない。












「ここでいい?」


結局家の近くまで送ってもらっちゃった。
不二はいつもの笑顔を崩さずにあたしに言う。


「う、うん」

「傘、早く見つかるといいね」


さりげなくあたしの傷を抉るようなことを言ってくる不二。
でも…ここまでしてくれたのに、本当のこと言わないとしっくりこないよね。
あたしは意を決して真実を述べた。


「あ、あのね、不二!」

「…?」


深く息を吸って、一気に吐き出した。


「ホントは傘、盗まれてないの!」


すると不二はにこっと笑ってさらっと言った。


「うん、知ってる」

「――へッ?」


あたしは唖然として口を開ける。


「だってあれはどう見ても傘を盗もうとしてた光景でしょ。みょうじの動き、不自然だったもん」

「な!」

「僕、優しいから気付かない振りしてあげてたんだ」

「………」

「これから梅雨時は傘もってくること。わかった?」

「……ハイ」

「まぁみょうじの自宅もわかったことだし、結果オーライってとこかな?」

「ちょっ…それってどういう…」

「自分で考えてね」


頭をポンポンと撫でて、「じゃまた明日」と言って不二は歩き出した。

不二の背中が見えなくなってしまう前に、あたしはもう一度大きな声を出して不二を呼び止めた。





「不二!」

「ん?」

「その…、今日はありがと!」


すると不二はやっぱりにこっと笑い、手を高く上げた。






なんだろ…この気持ち。
ドキドキが止まらない。
自分の心臓がまるで自分のものでないみたいに騒いでる。


これはもしかして…
ひょっとするとアレですか?







時は梅雨。
ある雨の日のこと。

あたし、みょうじなまえはマジで不二に恋しちゃいそうな予感です――。




















‥fin‥