Hey,my darling!





息もできないくらい
ねぇ 君に夢中だよ





Hey,my darling!





青い空、白い雲。
暖かな風が頬に触れて春の訪れを知らせる。
今日は絶好のデート日和。
あたしは先日買ったばかりの春服を卸して腕を通す。
真っ白いブラウスにグレーのプリーツスカート。
勿論、お化粧もバッチリ。
今日はあたしの家まで周助が迎えに来てくれるはずなんだけど。
ちょっと早く準備し過ぎちゃったかな?
まだ周助の姿は見えない。
あたしは家の前に出て周助が来るのを待つ。


「今日はいい天気だなぁ」


まるで今日という日を神様が歓迎してくれているみたい。
澄んだ空気を吸い込み、あたしは背伸びをした。
しばらくして、あたしの目の前に見知らぬ銀色のスポーツカーが止まった。


(高そうな車…)


一体誰が乗ってるんだろう?と運転席をチラッと覗いてみると。
突然窓が開いて運転手と目が合う。
驚いたことに、見慣れた笑顔がそこにあった。


「やぁ なまえ」

「しゅ、周助!?」


黒い縁のお洒落な眼鏡をかけた周助。
第二ボタンまで開けた白いシャツを着こなし、あたしを呼ぶその姿は映画のワンシーンのようで。
あたしは思わず固まってしまった。


「なまえ、どうしたの?ぼーっとして」

「だ、だって周助…その車……」

「あぁ 買ったんだよ。免許も取ったし」

「いつの間に!」

「なまえに内緒で、こっそりと」

「えー!?」


あたしはまだ驚きが隠せないといった表情。
これが本当に自分の彼氏なのかと頭の中で疑う程、今のあたしにはサプライズ過ぎた。
ただ唖然として周助と、そのスポーツカーを見つめる。


「クスッ なまえ、そんなにジッと見つめられるとこっちも恥ずかしいんだけど」

「え!?あ、ごめん」

「とりあえず乗ってよ?話はそれから」


ね?と言って周助はあたしに助手席に乗るように合図する。
あたしはおずおずと真新しい銀色のドアを開け、助手席に座る。
シートベルトをすると、周助はドアのロックをしてにっこりと笑って言った。


「では、なまえ姫。参りましょうか」

「ふぇっ??」

「今日はなまえに絶景を見せてあげる。さぁ 行くよ」


車のエンジンがかかり動き出す。
何処に行くんだろう?なんて疑問より、隣で運転してる周助の姿がかっこよくて。
ただあたしはドキドキして見つめることしかできなかった。


新車独特の匂い。
目の前には汗をかいたペットボトルが二つ。
ステレオからは周助の好きなジャズが流れていて。
本当にどこかのお姫様になった気分。
「実はこの車、助手席に乗せるのはなまえが初めてなんだよ」

「本当?」

「一番になまえに乗せたかったからね。今日のデートが待遠しかったよ」

「あたしも」


零れる程の笑顔で周助にそう言ったら、周助もにっこりと微笑み返してくれた。
なんだか照れてしまったあたしは窓の外を見つめた。


高速に入り、アクセルを踏み直した周助。
車の速度がグンと上がる。
免許取り立てとは思えない程、優雅な運転で。
こんな所でもあたしの彼氏は天才なんだな、と一人納得した。


「周助、運転上手だねー」

「そう?」

「うん!だって乗り心地凄くいいもん!」

「ありがとう。じゃあ褒めてもらった分、あと少し頑張って安全運転しないとね」


いつもの笑顔で周助は言った。





見慣れない風景。
窓を開けると微かに海の匂いを感じた。
遠くの方で深いブルーが見える。


「周助ッ!もしかして、海!?」

「ご名答。もうちょっとで着くからね」

「うん!」




しばらくした後、あたしの目の前には大きな深い藍色をした海が広がっていた。
車から下りたあたしはキラキラと目を輝かせて周助に言った。


「うわー!綺麗…すっごく綺麗!」

「春だから泳いでいる人もいないし、穏やかでいいかなって思ったんだけど。どう?気に入ってくれた?」

「うんうん!誰もいないんだもん!あたしたち二人だけがこの広い海を独占してるみたーい」


両手を広げて伸びをするあたし。
周助は眼鏡を外してにっこりとあたしを見つめる。


「天気もいいし、誰もいないし、海は綺麗だし。おまけに周助はかっこいいし!今日は最高だよー!」

「喜んでもらえて嬉しいな」

「静かな春の海もまた趣があっていいねー。周助、連れてきてくれてどうもありがとー!」

「どう致しまして」


ふと訪れた話の隙。
周助とあたしは見つめ合う形になった。


「なまえ」


周助が視線を甘く絡めてきて。
あたしもそれに答えるように周助に体を預ける。
ギュッと抱き締められた体。
耳を澄ませば聞こえる周助の鼓動。
世界中であたしだけが聴いている音。
穏やかなそのリズムに心は落ち着く。


「僕、なまえが好きだよ」

「ん…あたしも」

「なまえとこうしていると信じられないくらい心が落ち着いて、優しい自分になれるんだ」


周助はあたしの唇に親指を当て、そっと触れるだけのキスをした。
綺麗な蜂蜜色の髪が太陽に反射されて光る。
アイスブルーの瞳があたしを捕らえて離さない。


「ずっとこうしていたいな…」

「周助…」

「なまえと抱き締め合って、キスをして、愛し合って。時間を過ごしていけたらいいな…」

「なんだかプロポーズされてるみたい」

「そう捉えてくれて構わないよ?むしろその方が光栄なんだけど」

「あたしもね、周助と時を一緒に過ごしていきたい。周助となら、なんでもない時でも素敵な時間に変わるから…」


ずっと傍にいたいと、そう思うんだ。
胸の中にあるありったけの想いを、言葉にしようとした時。
再び周助の唇が落ちてきた。


「…ん……」


当てられた温度がとても温かくて、気持ち良くて。
周助であたしの頭の中は満たされてしまう。
大好きだな、そう心から思えるのはあなただから。


「周助、」

「これからも、ずっと一緒にいさせて?」





逆らえ切れない強引な視線。
逆らいたくない強引な口調。

あたしは周助の首に腕を回し、イエスの言葉の代わりにキスをした。





これから新しい二人の季節が動き出す…
それは春のように穏やかで暖かい日だまりのような優しさに包まれていた――。















‥fin‥