とある日常の一コマ。









「不二くん不二くん」


シャーペンでツンツンと突かれ僕は隣を向く。
そこには真剣な眼差しで僕を見つめるなまえの姿があった。


「何?なまえ」

「ごめんね。ちょっと質問があって」

「うん」


何か深刻な話なのだろうか。
なまえは先生の目を盗みながら僕に小声で話しかけてくる。


「不二くんが思う女の子の理想のバストってどれくらい?」

「は?」


僕は思わず聞き返してしまった。
何をふざけたことを聞いてくるんだ、この子は。
呆れ顔で僕はなまえを見る。
なまえはというと至って真面目で。
僕の答えが気になるって顔をしている。


「ねぇねぇ、どれくらい?」

「そんなこと聞いてどうするの?」

「今度の青学タイムスの特集に載せようと思って」

「青学タイムス…」


それは新聞部が発行する校内新聞で全校生徒の手に行き渡るものだ。
なまえは新聞部の部長で面白い記事を書くことで有名だ。
何やら今回の特集は“青学きっての王子様たちに聞く、理想の女の子像”らしい。
その中の一部に女の子のバストも含まれるようでなまえは今必死に僕の答えを聞こうとしている。


「ねぇ不二くんの理想はどれくらい?」


興味津津といった様子で僕に尋ねてくるなまえ。
僕は頑として答えようとしない。
第一こんなこと聞いて何になるんだ?
するとなまえは僕の心の声を聞いてか聞かずかこう答えた。


「この特集を楽しみにしてる女子生徒は多いのよー。それに今回は今話題の王子様ネタでしょう?みんなあたしの書く記事に期待してくれてるの。お願い、答えて?」

「他の人はみんなどれくらいって答えてるの?」

「うんとね…英二くんと桃城くんは“デカい方がいい”って。それでタカさんは“ダイナマイトボディーに目がバーニングー!”って言ってた。みんな大きいのが好みみたい」

「へぇ…」

「あ!でも大石くんと手塚くんはAカップでもいいって言ってたのよ?」


…手塚、絶対AカップとかBカップの意味わかってないだろう。


「乾くんに関してはなんか長ったらしく説明し始めたから聞くの諦めちゃったの。海堂くんは“大きさには捕らわれないっス”って言ってた」

「越前は?」

「越前くんは……“そういうの興味ない”って…」


越前の回答を言った時だけ何故かなまえの頬が赤くなった。
何か思い出してるみたいでなまえの拳がギュッと握り締められてた。


「どうかした?」

「でもね、あたしは仕事だからどうしても興味ないって答えは載せたくなかったの。ファンタとかでいろいろ釣ってみたんだけど…最終的にね、」

「うん」

「……セクハラされた」






――は?


「つまり、越前くんに胸揉まれたのッ!そうしたら“アンタくらいの大きさがベストだ”って言われた…」


越前、人のモノに手を出すなんていい度胸してるじゃない。
あとでシバいておこう。
なまえは縋るような目で僕を見つめて言った。


「テニス部レギュラーで答えてもらってないのは不二くんだけなの。ねぇねぇ、不二くんはどれくらい?」
なまえのその目に僕は弱い。
なんだかんだ言って僕はなまえが好きらしい。
初めは友達くらいしか思ってなかったけれど、なまえの笑顔を見ると癒される自分がいて、それが今は恋だってことに気付き始めたんだ。
随分と厄介な恋だ。
なまえは僕のことなんかちっとも恋心も何も抱いてないんだから。


「僕は…大きさって大事だと思うな」

「な…!不二くん!そんな涼しい顔して巨乳好きだったの!?」

「なまえ…まだ僕巨乳が好きとは一言も言ってないんだけど」

「だって…今大きさが大事って…!」


なまえは驚いてる。
僕はそれに怯むことなく続ける。


「つまりね、その人に合った大きさだったら構わないってこと」

「ふむふむ」

「でもカタチも大事だよね」

「あたしもそう思う」


なまえは胸を張って言った。


「今の男は大きさにばかり捕らわれ過ぎててカタチを大事にしてないのよ!まったく!デカけりゃいいってもんじゃないわよね!」


一人納得しているなまえ。
僕はなまえの胸元をチラッと見た。
セーラー服から覗く白い肌。
なまえは胸は大きくない。
というか小さい方だと思う。
彼女はそれを人一倍気にしているようだったけれど、僕はなまえの胸は好きだったりする。(実際見たことないけどね)




あ、ヤバイ。
そんなこと考えてたらちょっと興奮してきた。
所詮僕も健康な男子だ。
女の子の胸元を見てドキドキしないはずがない。
なまえは僕の異変に気付いたのか「どうしたの?不二くん?」と言ってくる。






まったく、なまえには敵わないよ。
こんなにも僕を惑わせるなんて、君はすごい人なのかもね。


「なまえ」

「なぁに?」

「僕…なまえの大きさ好きだよ」

「え……」


越前に負けず劣らず僕も勝負をかける。
さりげなく告白も含めたつもりだったんだけど、なまえは何をどう思ったのかキラキラした瞳を僕に向け


「ありがとう!不二くん!」


と言った。







その後、青学タイムスの見出しに【青学テニス部No.2と生意気ルーキーくんはペチャパイ好み】と書かれていたのは言うまでもない。




なまえ…僕そういう意味で言ったんじゃないんだけど。

でもまぁいっか。
いつかこの気持ちは気付いてもらえればいいし、焦ったって仕方ないよね。
僕は新聞を読み静かに微笑んだ。














‥fin‥