周助のことたくさん想った。 喜んでくれますように。 美味しく食べてもらえますように。
あんなこと言ってごめんね? あたしもすごく苦しかったよ? だけど周助が好きだから… 気付いてほしかったの。
いろんな想いが錯綜する中で作ったガトーショコラは今までのと比べ物にならないくらい美味しそうで。 あたしの渾身の出来だった。
「出来たー!!」
人間努力すれば苦手を克服できるんだってなんだかわかった気がする。 それまでに何回も挫けそうになったけど。 初心に戻ってあたしは何故こんなに一生懸命チョコを作ってるのか思い出してみた。
周助のため、 喜んでもらうため。 見返してやるとか認めてもらうとかそんな思いは決してなかったこと。 何があたしをここまで動かすのか、それは全部周助のためだったってこと。 やっと思い出したんだ。
「あ!ラッピング用のリボンとバッグがないや」
あたしはチョコ本体のことばかり考えていてラッピングまで頭が回らなかった。 やっぱり最後まできちんと素敵なラッピングをして周助に渡したい。
「ショッピングモールに行けばいっぱい売ってるよね」
今からでも遅くない。 ちょっと家から離れてるけど、品数いいし、素敵なラッピングを選びたいからあたしは行くことにした。
◇ ◇ ◇
「うーん、どっちがいいかなぁ…」
シンプルで綺麗めにいくか、それともこてこてのラブリーめにいくか。 迷うところだなぁ。
せっかくのバレンタインなんだから可愛らしいハートで攻めるのもありかもしれない。 だけど周助の趣味はどっちかっていうと…
「シンプル綺麗めだよね!」
上品そうなラッピングバッグと赤い薔薇のリボンを買ってあたしは店を出た。 まだ渡した訳でもないのに心は弾む。 あとは家に帰って包んで周助と仲直りするだけだ! バレンタイン当日までもう少し。 周助喜んでくれるかなぁ?
あたしはルンルンで来た道を帰っていった。
「――えッ?」
あたしは信号の向こうを見て立ち止まる。
嘘…だよね? 何かの間違いだよね?
そこにはあたしの彼氏と遠目からでも見てわかる程の綺麗な女性が仲良さそうに歩いていた。 二人は一枚の絵のようで、あまりの美しさに声が出なかった。 足が竦んだ。 血の気が引いた。
周助に限ってそんなこと…!と思えば思う程、今起きている現実が突き付けられる。
「しゅ…すけ…」
いつもあたしに向けるのとは違う、もっと穏やかで柔らかい感じの笑顔。 あたしの見たことのない、周助の笑顔――。
不思議と涙は出なかった。 その代わり空虚と絶望を感じた。
――あの人からチョコ貰うのかな…
――だからあたしのなんていらないって言ったの…?
悪いことばかり思ってしまう。
そういえばあたし、最近周助に「好きだよ」って言われてなかった気がする。 その上この間周助のこと引っ叩いたし。 いい加減、あたしに愛想尽かしちゃったのかもしれない。
そんなあたしはただ遠くから周助の姿を見つめることしかできなかった。
(act4.戻れない、あたし。)
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