励まされる、あたし。






へ――?

今、周助なんて言った?
別にいいよって言わなかった?
いや、確かに言ったよね?

あたしは呆然として周助を見つめる。
周助は至って普通で笑ってはいなかったけど、別に怒ってる様子もなく。
淡々として言った。


「なまえがあげないって言うのなら、僕無理して貰う必要ないし」

「ちょっ、ちょっと待ってよ!周助、あたしからのチョコ…欲しくないの?」

「欲しいよ。でもなまえが僕にくれる気ないのなら無理して貰う必要ないかなって」

「それはあたし以外からたくさんチョコ貰うからいらないってこと?」

「なまえ?」


あたしは悲しくなった。
周助の言葉に、態度に。
いくら怒り任せに言った言葉でも止めてほしかった。
そんなにあたしのチョコなんていらないんだ。
欲しくないんだ。
そう思ったらジワリと視界が滲んだ。
涙が頬を伝った。


「……だよ」

「え?」

「最低だよッ!周助!」


パシンと周助の頬を叩く。
周助は目を見開き、左頬を押さえていた。


「あたしの想いも知らないで!あたしが今までどれだけ――」


どれだけ頑張って周助のためにチョコ作ってきたのかわからないでしょう!?

最後の言葉は言えなかった。
なんだか無性に自分にやるせなくなった。
最初から周助はあたしのチョコに期待も何もしてなかったんだ。
今までの努力は何だったの?


「もういい」

「なまえ、」

「周助なんてもう知らないッ!」

「なまえ、ちょっと待って…」

「周助の馬鹿ー!!」


あたしはそう叫んだ後廊下を走り、教室へと向かった。


何よ何よ!
周助なんてあたしの気持ちちっともわかってないんだ!
あたしがどれだけ周助のために頑張ってチョコ作ってきたと思ってるの!?
周助の馬鹿!
もう知らないッ!


――ガラッ


「あら?なまえー!不二くんに会えたぁ?」


教室に入ると亜夜がまだ残っていた。
それと同時に周助の言葉がフラッシュバックして涙が零れた。
亜夜はあたしの突然の涙に驚いたようだったけれど、すぐに状況を把握したみたいで「早く帰ろっか」と言ってくれた。
あたしはただ頷いて荷物を持って放課後の教室を後にした。





◇ ◇ ◇





「私それ…なまえが悪いと思う」


亜夜は言った。
あたしは「でも…!」と言って反論しようとしたが、亜夜に遮られた。


「だって事の発端を作ったのってなまえじゃない」

「そうだけど…」

「いくら頭にきたからといって不二くん引っ叩くのはどうかと思うよ?」

「う…」

「だからバレンタイン前はお互いの距離を保つのが重要なのよ。チョコにばっかり構ってて、不二くんほったらかしにしてたなまえが悪い」

「………」

「まぁ、でもなまえの言うこともわからなくはないけどねー」

「でしょう!?」


あたしは亜夜のその言葉を待ってましたと言わんばかりに同意した。


「いくら不二くんでもちょっと女心をわかってない軽率な発言が目立つわね」

「でしょでしょう!?」

「でも全体的になまえが悪い」

「………」

あたしは落ち込む。
だってあの時は頭に血が上ってて口任せに言いたい事言っちゃったから…どうしようもなかったのよ。
周助だって「冗談だよね?」とか言って止めてくれればよかったのに。
「別にいいよ」って何よそれ。
あたしなんかのチョコは期待してない以前にいらないってことでしょう?
なんだかそう思うと悔しくなった。


「とにかく、早く不二くんと仲直りすること!それからチョコは最後まで作りなさい!」

「…うん」

「不二くんだって口ではいらないって言ってるけど、何だかんだ言って彼女からのチョコは欲しいものよ?」

「そうかなぁ…」

「ほら、思い出して?昨年不二くん、“なまえの手作りチョコが欲しかったな”って言ったんでしょう?」



そうだ。
あたしはあの時の周助の残念そうな顔が忘れられなくて今年は美味しい手作りチョコを渡そうって決めたんだ。
だから今まで頑張って…


「亜夜」

「んー?」

「ありがと。なんかちょっと元気出た!」

「そうかそうか」

「周助とは仲直りする。チョコも今まで通り頑張って作る!」

「それがいいと思うわ」

「美味しいチョコを渡すって心に誓ったもんね」


亜夜はにっこり笑ってあたしの背中を押した。
こういう時に感じる。
やっぱり人間、持つべきものは友情だなって。
あたしはすごくいい親友に恵まれた。
周助も大切だけど、女友達も大切だよね!


「亜夜、ありがとね!」

「私のことはいいから。早く不二くんと仲直りしなさい」

「うん!」

「それはそうと…なまえ、アンタ不二くんに渡すチョコちゃんと作れてるの?」

「う…」

「私からのアドバイスを一つ教えてあげる」

「え?」

「美味しいチョコを作るにはね…」


亜夜の言葉に耳を澄ませた。
そしてあたしは苦笑した。
一番忘れていたことかもしれない。
“美味しいチョコ”に捕らわれ過ぎて肝心なことを忘れていた。


「わかった?」

「うん。わかった」

「なら美味しいチョコは作れるはずよ」

「何から何までありがとう、亜夜!」

「いいえ」

「じゃあ、あたし行くね!」

「ハイハイ」


元気になったあたしは亜夜に手を振り、自宅へ向かう。
今日も頑張ろう。
美味しいチョコを作るために。
周助に喜んでもらうために。





美味しいチョコを作るために必要なモノ。

それは“愛情”という名のスパイス。















(act3.励まされる、あたし。)