しおからい嘘ですねさま提出




あの日から調度1年が経った。
時間が過ぎるのは早いものだ。目を閉じればあの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる。
しかし今でもあの日のことを『思い出』にできないのは、きっと今でも彼を愛しているからなんだと思う。

いくら彼の名前を呼んでも、手を伸ばしても、もう二度と会えるはずはないのに…
別れを切り出したのは自分なのに、ずっとあの日のことを後悔してる自分がいる。



「おい、女。」

ボーッと港の端っこで海を見つめていたあたしに、突然誰かが声をかけてきた。


「………」

「無視とはいい度胸だな」

「…今日で、ゾロと別れて一年なんです」

邪魔しないでくださいと言ったあたしの頬には、一筋の涙が伝っていた。


「またロロノア屋の話か」

あたしの隣に胡座をかいてすわる彼は、数日前この島に来た海賊団の船長。トラファルガーローさん。
きっかけは忘れたけど、何故かやたらと彼はあたしに話しかけてくる。


「もっとあたしが強かったら、あんな嘘つかずにすんだのかな」


揺れる波をただじっと見つめて、あたしは息を深く吸い込んだ。


ただ、ゾロが好きだった。
仲間になって、ゾロとたくさんの時間を過ごして、益々彼が好きになった。

だけど好きになればなるほど、あたしは怖くなった。


「守られるだけって、意外と辛いんです。自分のせいで好きな人が目の前で傷ついていくんですから」


だからあたしは、調度一年前に、この島で船を降りた。



『この島で他に好きな人ができた』

『その人と結婚をする』



そんな相手、いるわけないのに



「後悔してんのか」


「……勿論してますよ。でもこれでよかったんです。だって、あたしがあのままいたら、これ以上彼を傷つけていた」

だからこれでよかったんです。
それはまるで自分に言い聞かせるように、あたしは呟いた。


「俺は医者だ。どんな大怪我でも治せる。だが、心の怪我は医者には治せねェんだ」

「……何が、言いたいんですか」

「俺たちと一緒に旅しねェか」

そう言って帽子を深く被り直した不器用なローさんが、どことなく彼に似ていて、あたしはまた涙をこぼした。

きっと彼なりに、あたしを励まそうとしてくれているのだろう。


「………もう、あたしダメなんです。ゾロじゃなきゃ、やっぱりダメなんです。」

目を閉じれば、今でも彼は、あたしの隣で笑っている。いびきをかいて寝てる。真剣な瞳で筋練に励んでる。

あたしの中には、彼しかいなくて、もう彼しかいれたくないのだ。



「俺が、アイツを忘れさせて…」

「ごめんなさい」


これから先、生涯ゾロ以外の人を愛する自信はないから。
ゾロとの思い出を、消したくないから。


「…この島にいたら、もしかしたらグランドラインを一周して、彼が戻ってきてくれるかもしれないから」

「………そうか」


ローさんは、そういうとあたしの頭を優しくポンと撫でて、去っていった。
そんな仕種まで彼とかぶって見えてしまったあたしは、相当イかれているのかもしれない。

だけど彼を忘れるくらいなら、あたしはこの記憶の海で死んでいったほうがいい。


だってあたしから彼を引いたら、何も残らないのだから





記憶の海にて溺死
(貴方だけを、愛していたい)






2012.03.20.02:31


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