◇しおからい嘘ですねさま提出
あの日から調度1年が経った。
時間が過ぎるのは早いものだ。目を閉じればあの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる。
しかし今でもあの日のことを『思い出』にできないのは、きっと今でも彼を愛しているからなんだと思う。
いくら彼の名前を呼んでも、手を伸ばしても、もう二度と会えるはずはないのに…
別れを切り出したのは自分なのに、ずっとあの日のことを後悔してる自分がいる。
「おい、女。」
ボーッと港の端っこで海を見つめていたあたしに、突然誰かが声をかけてきた。
「………」
「無視とはいい度胸だな」
「…今日で、ゾロと別れて一年なんです」
邪魔しないでくださいと言ったあたしの頬には、一筋の涙が伝っていた。
「またロロノア屋の話か」
あたしの隣に胡座をかいてすわる彼は、数日前この島に来た海賊団の船長。トラファルガーローさん。
きっかけは忘れたけど、何故かやたらと彼はあたしに話しかけてくる。
「もっとあたしが強かったら、あんな嘘つかずにすんだのかな」
揺れる波をただじっと見つめて、あたしは息を深く吸い込んだ。
ただ、ゾロが好きだった。
仲間になって、ゾロとたくさんの時間を過ごして、益々彼が好きになった。
だけど好きになればなるほど、あたしは怖くなった。
「守られるだけって、意外と辛いんです。自分のせいで好きな人が目の前で傷ついていくんですから」
だからあたしは、調度一年前に、この島で船を降りた。
『この島で他に好きな人ができた』
『その人と結婚をする』
そんな相手、いるわけないのに
「後悔してんのか」
「……勿論してますよ。でもこれでよかったんです。だって、あたしがあのままいたら、これ以上彼を傷つけていた」
だからこれでよかったんです。
それはまるで自分に言い聞かせるように、あたしは呟いた。
「俺は医者だ。どんな大怪我でも治せる。だが、心の怪我は医者には治せねェんだ」
「……何が、言いたいんですか」
「俺たちと一緒に旅しねェか」
そう言って帽子を深く被り直した不器用なローさんが、どことなく彼に似ていて、あたしはまた涙をこぼした。
きっと彼なりに、あたしを励まそうとしてくれているのだろう。
「………もう、あたしダメなんです。ゾロじゃなきゃ、やっぱりダメなんです。」
目を閉じれば、今でも彼は、あたしの隣で笑っている。いびきをかいて寝てる。真剣な瞳で筋練に励んでる。
あたしの中には、彼しかいなくて、もう彼しかいれたくないのだ。
「俺が、アイツを忘れさせて…」
「ごめんなさい」
これから先、生涯ゾロ以外の人を愛する自信はないから。
ゾロとの思い出を、消したくないから。
「…この島にいたら、もしかしたらグランドラインを一周して、彼が戻ってきてくれるかもしれないから」
「………そうか」
ローさんは、そういうとあたしの頭を優しくポンと撫でて、去っていった。
そんな仕種まで彼とかぶって見えてしまったあたしは、相当イかれているのかもしれない。
だけど彼を忘れるくらいなら、あたしはこの記憶の海で死んでいったほうがいい。
だってあたしから彼を引いたら、何も残らないのだから
記憶の海にて溺死
(貴方だけを、愛していたい)
2012.03.20.02:31
prev | next