(みー吉さま15400番キリリク)
わたしたちの出逢いは、とても暑くて蝉がうるさい夏島だった。
「あっつーい、この前の春島は花に囲まれてほどよい暖かさで好きだったけど、この島はだめ。暑すぎる。早いとこ切り上げて次の島目指そうかな…」
わたしは音楽家。横笛一つ手に、家を出て世界中を転々と旅している。最近はそこそこ名も売れてきて、大きなホールで演奏させてもらう機会も増えてきた。今回の島では路上で演奏して、通りすがりの人々に少ないながらもお金をもらった。
だいぶ日が落ちてきて、そろそろ次の島へ向かおうかとわたしは海の方へ足を進めた。
港ではなく海岸の方にわざわざ来たのは、何だか夕陽を見てついつい演奏したくなったからだ。
商店街から少し離れているためか、海岸はとても静かだった。波の音、カモメの鳴き声、木々のざわめき。全てが心地よいメロディだった。わたしは目を閉じ、横笛にそっと息を吹き込む。
そのメロディが自然と調和し、さらに素敵なハーモニーを奏でさせた。夏島の暑さを忘れてしまうくらい、とても涼やかで落ち着くメロディだった。
しかしそれを遮ったのは、じゃりっという誰かの足音だった。わたしは吹くのを止め、音のした方向を向いた。
「あ、わりい。なんかいい曲だなって思ってたら、勝手に体が動いちまってて」
にししと笑った青年は、テンガロンハットを押さえながら、わたしの隣に歩み寄った。
そばかすが似合う青年だった。この顔をわたしは何処かで見たことがあったけど、そんなことより上半身裸のことに動揺が隠しきれない。
「な、なんで裸っ…」
目のやり場に困り、挙動不審になってしまう。
「あはは、お前おもしろいな。顔真っ赤だぜ?」
笑顔がまぶしい。なんか、顔があつい。いや、なんでわたしドキドキしてるの!
「ち、違っ!この島が暑いからよ」
ふんっとそっぽを向いた。彼はなるほどと何の疑いもなく素直に頷く。
なんだかそんな彼に余計心を乱されて、わたしは落ち着きを取り戻すように横笛を取り出した。
「あ、俺にもそれかしてくれよ!」
「だめ、これはわたしの大切なモノなの。これは本当に信用できる人にしか触らせないって決めてるんだから」
わたしはそう言って横笛でまた音色を奏で始めた。彼は黙って、隣でじっとわたしの演奏を聞いていた。最後の一音が海の音と調和して、胸に響く。一人で余韻に浸っていると、彼は静かにわたしの手に自分の手を重ねてきた。
「!!」
彼はただ真っ直ぐ前を向いたまま水平線を見つめてはにかんでいた。
「なあ、一緒に旅しねぇ?」
それはあまりにも突然で、でも最高の口説き文句だった。
溶けるほどあつい告白
2013.10.20.19:11
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