(2400番匿名様キリリク)
「あ、サッチ隊長!」
私はリーゼント頭の彼、サッチ隊長に声をかけた。彼は振り返るなり、私に手を振って近づいてきてくれた。
「おう、手鞠どうした?」
ニコニコと私に屈託のない笑顔を振りまいてくれるサッチ隊長に、気づいたら私は恋していた。
だけど私はただの航海士。サッチ隊長は、私なんか眼中にないんだろうな…
「えっと、マルコ隊長がすごい顔してサッチ隊長のこと、探してましたよ」
うふふと笑いながら伝えると、サッチ隊長は何か心当たりがあるようで、顔を青ざめた。
「やっべ……手鞠、マルコどっちにいった?」
「秘密ですよ、ふふっ。言ったら私もマルコ隊長に怒られちゃいます」
首を傾げてごめんなさいと言うと、サッチ隊長は顔をしかめた。
「そこを何とかさ…」
「サッチ〜」
甘い声でサッチ隊長を後ろから抱きしめたのはナースのレベッカさん。だれもが認めるグラマーな体。弾力があり、色白で、一言であらわせばセクシー。最近サッチ隊長と付き合っていると噂で聞いた。
知っていたつもりだけど、こうやって目の前でサッチ隊長が他の人と触れ合っているのを見ると、胸が苦しい。どう頑張っても私はあんなにセクシーにはなれないし、甘い声も出せない。
「レベッカ、お前のせいでまた俺がマルコに…」
「やだぁ、アタシじゃなくて、サッチが襲ってきたんじゃない。あーん、マルコ隊長にまた白い目向けられちゃう」
レベッカさんはクスクスと笑いながら、ちらりと私を見た。
「あら、いたの?うふ、大人の話しちゃってごめんなさいね」
それは厭味でわざと私にそう言っているのだろう。
私がサッチ隊長を好いていると知っているから…
「あ、いえ…じゃあ私はこれで…」
苦い笑みを浮かべながら、私は静かに立ち去った。
×××
手鞠と別れてすぐ、マルコに見つかった俺は、ネチネチと説教をうけた。
お前も男なんだから、俺の気持ちもわかるだろと言うと、遠慮なく蹴られた。
アイツは俺をなんだと思ってやがるんだ!4番隊隊長サッチさまだぞ!
「サッチ、またマルコに扱かれたらしいな」
そう嘲笑いながら俺に近づいてきたのはイゾウだった。
「お前はわかるだろ?女に誘われたら、いつどこでだって応えてやりたくなる」
「フッ…そういえばまだお前レベッカと付き合ってるのか?」
「なんだ、お前まで嫉妬か?」
にやにやしていると、イゾウは嫌な笑みを浮かべてきた。
「ああいう色気を外に出し過ぎてるやつより、さりげなくエロい方がそそる」
「あー…まあ確かに、一理あるな。でもそんな奴いねぇよー」
「気づいてないだけじゃないのか?」
ニヤリと笑って、イゾウは去って行った。
気づいていないだけ?そんな奴いただろうか…
ボーッと歩いていると、数メートル先でエースと手鞠がじゃれあってるのが目に入った。
手鞠の大切な航海日誌をエースが奪ったらしく、それを必死に取り替えそうとしていた。
手を伸ばしてジャンプする度に、ちらりと手鞠の細くて華奢な腰が見えた。
鬱陶しいからと言って、結んである黒髪が、ユラユラと揺れ動き、うなじが見え隠れする。そこには仲間の印である親父の刺青が彫られていて、何とも言えぬ感情が俺の体を走った。
今まで手鞠をそういう目で見たことはなかったが、イゾウの言葉を思い出しハッとした…
「あ、サッチ隊長っ…!」
俺に気づいた手鞠は、少し涙目で近づいてきた。
濡れた瞳、少し赤く染まった頬、ぷっくりと熟れた唇。全て官能的に見えた。
「エース隊長が、あたしの日誌を…」
「おいエース、あんまり手鞠いじめんなよ」
ポカッと頭を軽く殴って、日誌を奪うと、手鞠に手渡した。
「いって…ちょっとからかっただけだ!」
「サッチ隊長が来てくれなかったら、大変でした。ありがとうございますっ…」
「あ、ああ…」
嬉しそうに笑って、丁寧に頭を下げた手鞠に俺は心を奪われていた。
女なんて誰でもいいと思っていたし、誰でも変わらないと思っていた。
しかしこの日から俺は、一瞬でも手鞠が脳裏から離れることはなかったのだった。
恋患い
(好きな人ができたからレベッカさんと別れたって噂、本当ですか?)
2012.06.16.17:46
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