(ゾロ視点)
あの日以来、あいつは自分をくいなだと言って生活した。口調も、行動や仕草も、俺の知ってるくいなそのものだった。
クルー全員、その変貌ぶりに戸惑い、どうすればいいのかわかっていなかった。もちろん、俺もその一人だ。
ユリはあの時死んでいた。私があの子の真似をしていただけなの。
そう言って切なそうに笑うそいつは、疑いようもなく本当にくいなだった。
本当に死んでいたのはユリで、今までくいながユリを演じていたのだろうか。 俺にはわからなかった。今俺の目の前にいるのが、くいなじゃないと断言することも、くいなだと断言することも。
「ちょっとゾロ、あの子本当は誰なのよ」
不意にナミが俺の胸ぐらを掴んで問いただしてきた。
「………」
「なんで黙ってるのよ!あの子はユリよね?ホントにその、くいなっていう子だったわけ?」
「……………わかんねぇ」
わかんねぇんだよ。 ホントに今のアイツはくいななんだ。夜遅くまで剣の練習をする姿はアイツそのもので、唯一違うのは髪の長さが今のコイツの方が長いっていうだけ。
その唯一違う根拠をもとに、こいつは俺の知ってるくいなじゃないと言ったとしても、髪型を変えられたら、もう俺にはわからない。
「なんでわかんないのよ!アンタずっとあの子の側にいたじゃない!あの子はユリよね?今、あの子がくいなを演じてるだけなんじゃないの?今までアンタはあの子の何を見てきたの!」
俺はアイツの……何も見ていなかった。くいなを思い出してしまうユリを、自然と避けてしまっていた。アイツを見ようとしなかったし、見て来なかった。
「あ、ゾロ!一緒に稽古しない?…って、お取り込み中だったかしら?ごめんね、どうぞ続けて」
タイミングが良いのか悪いのか、アイツが部屋に入ってきた。
「ユリ!」
ナミがユリの名前を呼ぶと、そいつは悲しそうに笑った。
「ナミ、ごめんね。私くいななの。正直信じられないと思うけど、やっぱ妹の名前で呼ばれるのはもう辛いかな」
眉をひそめながら、髪を耳にかける仕草は、俺が最期に見たくいなの表情だった。
「くいな……………」
俺は無意識のうちにそう言って、"くいな"の頬にそっと手を伸ばしていた。
(くいな、会いたかった)
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