あたしは生涯、一人の男しか愛さなかった。ううん、愛せなかった。
彼が初めて道場に来たとき、あたしは彼に一目惚れした。 いろんな人を見てきたけど、彼の剣はとても大きく感じたんだ。お姉ちゃんの剣は無駄がなく、完璧に洗練されたもの。 対照的に彼の剣は、無駄が多くて野蛮だった。でもその中には、強くなりたいという強い意志と武士道を感じた。
もうこの人しかいないって思ったの。だけど彼はあたしではなく、お姉ちゃんを愛していった。 憧れや尊敬ではない違う感情が、彼に芽生えていたのを、あたしは気づいてしまった。 彼は違うといった。好きではないといった。でも長年彼を見てきたあたしにはわかってしまったの。
一度でいいから愛されたかった。こっちを見てほしかった。
でももうあたしは、死んでしま――――
パチンッ!!
「おい、ナミ!ダメだぞ!」 「うるさいわよ、チョッパー!離しなさい!」
頬に痛みが走り、あたしは目を開けた。
「んっ……っ、ぁ…」
目を開いた瞬間、眩しい光があたしを襲い、目を閉じる。
「「「ユリ!!」」」
みんなの声が聞こえ、あたしは再びゆっくりと目を開いた。 目を開けると、心配そうな顔をしたみんながあたしの周りを取り囲んでいた。 ナミやフランキー、ブルック、サンジは涙を流している。
「……バカ!何してんのよっ」
ナミが涙をこらえながら、怒鳴った。
「生きててよかったぜ、ホントに…」 「おお俺は、お前が死んじまうなんて思ってなかったぞ〜!」
ウソップまで涙目になり、あたしは今生きているのだと痛感した。
「………生き、てる…」
ゆっくりと辺りを見渡すと、扉の端でゾロが立っているのを見つけた。ロビンはゾロと離れたところで、あたしを心配そうに見つめていた。 そしてあたしは、全て思い出し、死に切れなかったのかと顔面蒼白した。
「ご、ごめんなさっ…あたし、まだ生きて……!ごめんなさい、ごめんなさい……」 「お、おいユリ?どうしたんだよ!」 「精神がかなり弱ってる。情緒不安定なんだ。」 「あたし、あたしがっ…あたしが死ねばよかったのに…」 「ユリ、落ち着くんだ!過呼吸になっちまうぞ!」
チョッパーがみんな部屋から出るように促し、過呼吸はすることなく落ち着いた。
「……ユリ、とりあえずこれを飲むんだ」 「…いらない」
もう死にたいんだ。楽になりたい。苦しみから逃れたい。
「…ゆっくりでいいから、話してくれないか?溜め込むと体に良くないことは、ユリもわかってるだろ?」
チョッパーは優しくあたしの手を撫でた。
「…あたし、本当は最低な人間なの。だから生きている価値なんてないの。もっと早く死ぬべきだったの」 「そんなことないぞ!俺たちがどれだけ心配したかわかってるだろ?」
あたしは小さく首を振った。
「あたしは、生きてたらいけないの。ゾロもそう思ってる」 「……ゾロとなんかあったのか?」 「あたし、ゾロの最愛の人を殺したの」 「え………?」
あたしはそれ以上何も言わなかった。 チョッパーは驚いたまま、何も言わなかった。否、何も言えなかったんだと思う。
だってあたし、最低な人間だから。
(生きていてごめんなさい)
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