彼らがこの城に来てから、私たち2人でいる時間が減ってしまった。
2人で住むには広すぎる城だったし、賑やかなのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
だけど、やっぱり2人がいいと思ってしまう。
「おい緋奈、お前怖い顔してるぞ」
ピンク色の髪をした少女――否、ペローナさんが私の顔を見て笑ってきた。
貴女が原因ですだなんて口が裂けても言えず、私はムッとまた眉を寄せた。
「…人の顔を見て笑うだなんて失礼ですよ。…あと、用がないようでしたらあちらに行っててください。もう少しでお食事できますから」
私は止まっていた手を動かし、夕食の準備を再開させる。
鍋の蓋を開けると、フワリとおいしそうな香りがキッチンを包む。
「うっひょー!相変わらずうまそうな匂いだな!」
彼女たちがここに来て、約1年が経った。
頂上戦争が起こって、彼がマリンフォードへ行ってしまってるときに、突然彼女たちが空から飛んできたのだ。
最初は戸惑うこともたくさんあったけど、もう何だかんだで彼女たちと過ごすことにも慣れてきた。
「……よし、完成です」
味見を終えて、皿に盛りつける。
結局何処かへ行くこともなく、ジッと見ているだけで手伝おうともしないペローナさんに、私は盛りつけた皿をズイッと差し出す。
「運ぶの手伝ってください」
「………ちっ…わかったよ」
私の押しに負けたペローナさんは、すごい嫌そうな顔をしながらも、手伝ってくれた。
食事の準備が終わると同時に、ミホークとゾロさんが帰ってきた。
「お帰りなさい、調度今夕食が出来上がりましたよ」
「ああ、ただいま。ご苦労さん」
ミホークは私に優しい眼差しを向けてくれた。
彼と『おかえり』『ただいま』というこの挨拶ができるだけで、私は幸せな気分になる。
「ありがとう。貴方もお疲れ様です」
「ああ」
彼のああという2文字の返答も、愛おしい。
彼を目で追っていると、ゾロさんが椅子に座ろうとしているのに気づく。
「ゾロさんは今日、シャワーは後にされますか?」
「あ、いや…今日はあんまり汗かいてねェし、せっかくの美味い飯だから先に食う」
彼に稽古され始めたときのゾロさんは、毎日毎日汗ダラダラで帰ってきていたが、最近のゾロさんは汗をあまりかいていない。
それだけ実力がついてきたということなのだろう。
私は微笑んで頷いた。
「ふふっわかりました、じゃあ食べましょうか」
そういって席に着こうとしたとき、誰かにグイッと腕を引っ張られ、体がよろける。
「あっ……ん、」
私の腕を引っ張ったのはミホークで、すっぽりと彼の胸の中に入ってしまった。
「わわっ…ど、どうしたんですか?」
「何でもない」
彼はそう言って、突然私の額にキスをしてきた。
びっくりしたのは私だけじゃなかったようで、ペローナさんもゾロさんも呆気にとられたように、目を丸くしていた。
「…み、ミホーク?」
「さあ、飯にするか」
ミホークは何もなかったかのように席につく。
「もうっ………」
恥ずかしかったけど、なんだか嬉しい。
きっとミホークは嫉妬したんだろう。
中々そういう一面を見せてくれないから、思わず顔がほころぶ。
「ああ、緋奈。あとで俺の部屋に来い。話がある」
「はいはい、わかりました」
どうせ後でミホークのお説教をくらうのだろう。
だけどやっぱり、彼が子供のように拗ねたあの一瞬が、頭から離れない。
ゾロさんやペローナさんが来てから、中々恋人らしいことはできてないけど、こういうのもあるなら、二人とも大歓迎かなって思った。
素敵な邪魔者たち
(新しい家族ができたみたい)
2012.02.25.15:13
prev | next