もっともっと彼が知りたい。そう思うのは何故だろうか。
わたしを不自由にしてる原因はあの人なのに、さりげない優しさに胸が温かくなるの


「おい緋奈、お前何処行くつもりだ」

手持ち無沙汰でやることがないため、何かやることはないかと部屋を出たとき、たまたま廊下を歩いていた土方さんに鉢合わせてしまった。


「あっ…土方さん……」

「俺は何処へ行くつもりだったと聞いたはずだが?」

「…あ、それは……」

冷たい口調に、冷や汗がにじむ。
部屋から出るなと言われていたのは事実。逃げ出そうだなんて思ってはないけど、土方さんの黒いオーラに言い淀む。


「…他の隊士に会ったらどうするつもりだ」

「……すみません。でも、何もせず部屋にいるのは退屈で…」

わたしが意を決してそう告げると、土方さんは小さくため息をした。


「それで部屋を出ようとして何するつもりだったんだ?」

「あ、それは…お掃除とか」

怖ず怖ずと言うわたしに追い撃ちをかけるように、彼はまたため息をつく。

「そんなことしなくていい。お前は部屋にいろ」

「でも……あ、土方さんは剣客だと聞きました。よかったらわたしに稽古を…!!」

もう一人で部屋にずっと篭っているのはいやだ。
どうにかして外にいたかった。


「……お前は俺が守る。余計なことはしなくていい。」

特に深い意味はないのだろうけど、俺が守るという言葉に、鼓動が早くなったのを感じた。


「………とりあえずお前は部屋から出るな。これは命令だ」

有無を言わせぬ口調に、わたしは仕方なく頷き、部屋に逆戻り。


それからわたしはため息ばかりして、退屈な時間を過ごした。
しかし暫くして、ドタドタと騒がしく廊下を走る足音が聞こえ、わたしの部屋の前で止まる。

「緋奈!緋奈!」

「緋奈ちゃん、一緒にお茶しようぜ!」

「平助、新八、お前ら廊下走るなって」

扉を開けると雪崩のように遠慮なく平助くんと永倉さんと原田さんが部屋に入ってきた。

「ど、どうしたんですか?」

「いや、緋奈ちゃん暇してるだろうと思ってな!」

「土方さんが茶菓子くれたからさ、一緒に食べようぜ」

「土方さんが…?」

わたしがぼそりと呟くと、原田さんがこっそり耳打ちしてくれた。

「あの人が緋奈と話しに行けって言ってきたんだ。わざわざ茶菓子買いに行ったみたいだぜ?それなのに、俺たちと食べた方がいいっていって渡してきたんだ」

「……訳わからないです」

「本当はいい人なんだよ、厳しいけど。…あ、さっきの話は土方さんに言うなよ?」

にっこり笑って頷くと、原田さんも笑って頭を撫でてくれた。

「あー!左之さん何やってんだよ!」

「うるせーな、茶が冷めちまうぞ。さっさと飲め」

新撰組は怖い人だと思ってた。だけどいざ一人一人と話してみると、みんな面白くて優しい人だった。
それは土方さんも例外じゃない。

ううん、むしろ彼はこの新撰組で1番優しい人なのかもしれない。

わたしは温かくなった胸を冷まさないよう、土方さんが買ってきた茶菓子を味わった。






貴方を知りたい
(早く貴方にありがとうと言いたい)






2012.02.04.12:57


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