「ねえ、嶺二って自分大好きだよね?」
「ん〜?急になになに?僕ちん何か変なこと言っちゃった?」
「いや、前からずっと思ってた」
次のソロ曲の打ち合わせをしているときに、ふとわたしがつぶやくと嶺二はきょとんとした顔でわたしを見つめた。
「わたしは作曲家で、嶺二のイメージや雰囲気に沿ってメロディを紡ぎ出すのが仕事でしょ?わたしは今まで、より多くの人に好感を持っていただけるような曲を作ってきたつもり」
わたしは嶺二のパートナーで、嶺二の曲はわたしが作っている。今まで多くの曲を作ってきたけど、彼のパートナーでよかったって心から思えるくらい本当に素敵なアイドルだ。
「でもメロディはわたしだけど、それを輝かせてくれるのは、嶺二の熱い歌声とそして素敵な歌詞。」
作曲はするけど、作詞のセンスがないわたしは、毎回嶺二に自分で考えてもらっていた。
「なになに、緋奈ちゃん、もしかして僕ちゃんに惚れちゃった?」
なんて嶺二はにやにやしながら顔を近づけてくるものだから、わたしは真顔で平手打ちをして話を続ける。「いったぁ〜い、僕これでもアイドルだよ?顔はさすがにヤバイよ〜」なんて言ってるけど気にしない。今の時代、メイクで誤魔化せる。だから、とりあえず黙って。嶺二うるさい。冗談はほどほどにしてほしい。アイドルは恋愛禁止だろう。何考えてるんだ、コイツ。
「だからさ、今まで歌詞は何も口出しせず、全て任せてきたけど…ごめん、今回は言わせて!」
わたしは嶺二が書いた仮の歌詞を指差す。
「"午前0時"はダメでしょ」
今までうるさかった嶺二がピタリと黙り込んだ。あら、珍しい。嶺二って黙れるんだ…じゃなくて、さっきの言葉ちゃんと聞いてたのかな?
「…なんでダメなの?」
「だってレイジじゃん」
「うん、0時だね」
「ちがう、それ嶺二として入れたでしょ」
きっと嶺二のことだ。「僕ちゃんの名前入れたら自己紹介にもなるしおもしろいよ〜」なんて変なこと考えたのだろう。
確かに0時と嶺二は響きが同じだから、Aメロで入れると名前を覚えてもらえるかもしれない。
「違うよ?そんな意味で入れたつもりはなかったんだけど…言われてみたらそうだよね!」
嶺二はにやりと笑って、それいいかもと満足げにわたしに指差した。
「それ、採用!」
…え、本当にそういうつもりがなかったのかとわたしは焦りが隠しきれない。絶対嶺二のことたから、自分の名前を故意的にいれたのだと思っていた。
「…っていうより、そんなこと考えちゃうなんてさ、やっぱり緋奈ちゃん僕ちんのこと大好きなんだねっ!」
呆れた。なんでこの人はすぐこういう発想に繋げるんだろうか。アイドルとしての自覚がないんじゃないだろうか。
「もういい、帰る」
「今夜は帰さないよ」
そういってニヤリと笑った嶺二に不覚にもドキッとしてしまった。しかしその瞬間、部屋にある小さな古時計の鐘がなり、私は真顔でほっぺを思いっきり引っ叩いて家を出て行ったのだった。
溺愛テンプテーション
2013.11.11.16:15
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