◇現代パロ


「お、おじゃましまーす……」

「どうぞ、テキトーに座って」

ガチゴチに緊張しながら、あたしは彼の部屋に足を踏み入れた。
黒と白に統一された実に男の子らしい部屋。意外にも部屋は綺麗に整頓されていて、少し驚く。

「…あ、そういえば男の部屋初めてなんだったか?」

クスリと笑った彼氏ゾロに、あたしは顔を赤めた。
生まれて一度も、男の子と付き合ったことがないあたし。
勿論、手も繋いだこともないし、キスもまだ。男の子の部屋なんて入ったことがない。


「うんっ…初めてだよ…」

「なんか初デートが部屋って、俺だいぶ飛ばしたな」

本当にゾロの言う通りだ。一緒にどっか行くわけでもなく、手を繋ぐわけでもなく、いきなり部屋に連れて来られたあたし。
今あたしは階段を、5段飛ばししている。

「ううっ…緊張する……」

「フッ…飲み物、これでいいか?」

さっき買っといたんだと笑ったゾロに、あたしはブンブンと縦に首を振った。

ジュースを飲みながら何を話そうとキョロキョロしていると、ゾロがふと思い出したように言った。


「あ、そういえば卒アル見たいか?」

イエスかノーで答えるなら勿論イエスだ。オフコースである!
以前メールでの冗談で見たいとか言ったことを律儀に覚えている彼に、思わず顔がほころぶ。

「み、見たいっ…!見せてくれるの…?」

「ああ、ちょっと待ってろ…」

そういってガサゴソと引き出しからアルバムを取り出し、あたしにそっと渡した。


「わあっ…じゃあ、失礼します…」

「ん、どうぞ」

アルバムを広げると、少し時代を感じる。
ゾロとあたしは6歳離れているため、ちょっと価値観とかも違ったりする。
まあそこで新しい発見をしたりして、楽しかったりもするんだけど。

ペラペラとページをめくっていると、不意に声をかけられた。

「…あんまり興味なかったか?」

あたしの見るペースが早かったからか、ゾロはニヤリと笑って顔を覗き込んできた。

「ち、ちがっ!先生とかよりゾロが早く見たくて…」

「ふーん」

満足気に笑った彼に、ハッとした。
は、はめられた…!

終始にやにやする彼を気にしないように、あたしは赤く染まった頬を隠しながら、アルバムに目を落とした。


「あ、ここに俺いる」

「えっ…?」

あたしがジッと見ていたのは各クラスの集合写真。
ここにいると言われても、1クラスに40人くらいはいるし、それが5クラス。
単純計算で200人いる中から彼を探すのはさすがに無理がある。

「当ててみろよ」

「え、それ難しいよっ」

「緋奈なら見つけられる」

そんなこと言われたら、誰だって頑張ってしまうだろう。
あたしは真剣に中学生の頃のゾロを探した。

しかしやはり見つけるのには無理があった。

「うーん………ひゃっ!」

あたしが唸っていると、突然後ろから優しく抱きしめられた。いきなりのことで思わず声をあげてしまうと、ゾロはまた小さく笑って、回す腕を強めてきた。

「ほら、早く見つけろよ」

耳元で囁かれ、あたしの心臓はバクバク。
緊張でアルバムを見る余裕がない。
大方これかなという見当はついているものの、自信がない上に、上手く頭が回らない。


「ま、前の方…?」

必死に冷静を装いながら尋ねた。

「ああ、そうだよ。わかったか?」

「…これ、かな?」

少しゾロの雰囲気がある小さな少年を指差した。
すると彼はあたしからふと離れた。
少し不安になり、後ろを振り返ると、満面の笑みでこちらを見つめる彼がいた。

「正解。よくわかったな」

そういってゾロはあたしの頭をポンポンと撫でた。大きくて温かい彼の手がとても心地いい。

「えへへ、これが愛の力かな?」

なんてあたしがおどけていうと、彼はクスリと笑ってあたしをもう一度抱きしめてきたのだった。



優しくて、でもちょっぴり意地悪な彼が、あたしの最愛の人。



ファーストラブ
(貴方と出逢えてよかった)






2012.07.12.07:59


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