私が彼女に、できること。ここ数日それを必死に考えた。
以前までの私なら、何がなんでも彼女を自分の側に置き、私が彼女を守ればいいと思っていました。
だけどそれではいけないんです。彼女のことを思うなら、私たちは別れるべき。
「緋奈、今まですみませんでした」
ぎこちない笑顔をしながらやっていた意味のないレッスン中、私は意を決して話し始めた。
緋奈は全てを悟ったようで、慌てて私の腕を握った。
「待って、トキヤ…音也とは本当に何もないの!音也はただの友達で!あたしが好きなのは…!」
「すみません。音也と緋奈がそういう関係ではないとわかっているんです…」
「だったら…!」
必死に懇願してくる緋奈の目には、うっすらと涙がたまっている。
私はそれを見ないように顔を背けた。
「すみません、緋奈のせいではありません。私が小さい男なんです。わかっているはずなのに……」
すみません、私がそう言うと、緋奈は首を振った。
「じゃあもう、あたしトキヤ以外と話さないし笑わない。だから…」
「別れましょう」
私はピシャリと言った。
彼女のひどく悲しそうな顔を見ると、私が出した答えは間違っていたんじゃないかと思ってしまう。
ですが、これでよかったんです。
このまま私たちが付き合っていれば、本当に彼女の笑顔を奪ってしまう。
いつも明るくて笑顔だった彼女が、最近毎日苦しそうにしている。苦しめている原因が私なのだから、余計に辛い。
「……好きなのに?」
「……緋奈、もう私を忘れて、これからは以前のように笑ってください」
パートナーも先生に頼んで変えていただきますね
そう言い残してレコーディングルームを出ると、緋奈の泣き声がした。私に気づかれないように声を押し殺して泣いている彼女らしい健気な様が、胸を締め付けた。
幸せになってください。
貴女が幸せなら、私はそれでいいんです。
いつかこれが正しいと
(そう思える日が来るでしょう)
2012.06.02.15:39
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