わたしは3歳の頃、アーロンという魚人にさらわれた。村のみんなは、アーロンさんのいいなりになっていた。だけどパパとママは、必死に泣きながらわたしを助けようとアーロンさんに説得していたのを覚えてる。刹那、わたしの目の前には鮮血が広がり、わたしの大好きな人は死んでしまった。
それからアーロンパークと呼ばれる場所で、わたしは監禁生活が続いた。
わたしと同じく連れて来られたナミちゃんは、本当に頭がよかった。そしてとっても強かった。
反対にわたしは泣き虫で、頭も悪く、何故連れて来られたのかがわからなかった。
ナミちゃんは魚人海賊団の幹部として働いて、お金を盗んだり、海賊と戦ったり、阿漕な真似もしていたらしい。
大きくなって、海へ出るナミちゃんとは逆に、わたしは一度も海に出たことがなかった。
隣にはいつもアーロンさんがいて、彼の許可なしでは部屋から出ることさえ許されなかった。
そしてわたしが15を過ぎたとき、アーロンさんに抱かれた。お前は俺のだと言いながら、毎日抱かれた。首や腰、太ももなどにアーロンさんは歯型をつけてきた。
泣いても叫んでも、誰も助けてくれなかった。
そんな日々が続いて、ある日ルフィという少年が、アーロンさんを倒してしまった。
絶対的存在だったアーロンさんがいなくなり、アーロンパークは滅びた。ナミちゃんはルフィさんと一緒に旅をすることになったが、わたしには戻る場所がなかった。パパもママもいない。頼れる人間がいなかった。
自由を望んでいたはずなのに、孤独になることが急に怖くなってしまった。そう思ったわたしは無我夢中で、彼ら魚人を助けていた。応急処置をして、気づけば彼らのために涙を流していた。
「緋奈、何考えてやがる」
「……別に、何でもないよ」
微笑んでみたわたしをギロリと睨んで、顎を持ち上げてきたのは、ホーディー。
彼もまた魚人で、新魚人海賊団の船長である。
あれからアーロンさんは助けられなかったが、ハチさんを助け、共に魚人島に来た。
そこでホーディーたちに出会い、わたしは彼に気に入られ、半ば無理矢理彼と過ごしている。
「嘘をつくな。言え」
彼は牙を剥き出しにして、わたしをジッと見つめた。
アーロンさんよりガッチリした体に低い声。
だけど、ホーディーはアーロンさんに雰囲気が似ていた。
「昔のこと思い出していたの」
「…アーロンさんが人間の女に惚れていると聞いたときは幻滅したが、お前を見て納得した」
ホーディーはあの時の彼のようにわたしに噛み付いた。
ちゃんと加減はわかっていて、骨を砕かない程度に噛み付いてくる。体中血だらけになり、わたしが声を漏らし涙を流すと、ホーディーは満足げに傷口を舐めた。
「魚人が憎いか?」
ニヤリと笑ってわたしに尋ねてきた。しかしわたしは朦朧とする意識の中、小さく笑って首を振った。
「貴方は人間が憎いかもしれないけど、わたしはアーロンさんも、ホーディーも、大好きだよ」
そういってわたしはゆっくりホーディーの胸に両手を当てた。
トクントクンと規則正しく脈打つ心音を聞き、また微笑んだ。
「…………」
「ホーディー、わたし人間でごめんね」
「……緋奈」
「種族は違うけど、わたしもホーディーと同じ。生きてるんだね」
一緒だねと笑おうとした瞬間、わたしはホーディーに抱きしめられた。
そして優しく優しくキスをしてきた。
「……お前は特別だ。嫌いじゃねェ」
大嫌いだった。大好きな人を殺した魚人が、最初は憎くて仕方なかった。
だけど、彼らは不器用なだけだった。魚人が人間を憎むのは、人間がいけないの。人間が彼らを嫌い、避けてしまったから…
ごめんね、
わたしたち人間のせいで、貴方たちを苦しめてしまった
「ホーディー、わたしが貴方を救うから」
みんな同じ太陽の下で笑える日はきっと来るよ
いつか太陽の下で
(種族なんて関係なく過ごそう)
2012.04.14.22:26
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