ふと視線を事件で人通りが疎らになってしまったかつての繁華街に向けると、見慣れたコートにフードを被る探索部隊が此方に向かって来るのが見える。

ものの数秒で四人の前に到着した者は、身長は百五十センチあるか無いかと思われる小柄な体。
コートで体型が分かりづらく、胸があるのかもよく分からないために男女の区別がつかない。
この探索部隊はフードを脱ぐと同時に少し癖のある薄く紫がかった銀の短かな髪を垂らし、流れるような動作で深々と頭を下げた。


『お待たせしてしまい、申し訳ありません』


高くもなく低くもない絶妙な音程の声の持ち主、どうやら少女のようである。

彼女は頭を上げる様子が全く無かったため、慌てて頭を上げさせた。

十五歳くらいだろうか、幼さが残る丸みのある可愛らしい顔立ち。少し目尻の垂れる大きな紫苑色の双眸を隠すように、伸びた前髪がふわりと揺れる。
その彼女の顔を見た途端にいつもの如くラビは飛び付き、手を握りながら勝手に自己紹介を始める始末。アレンはそれを左腕による脳天割りで沈めた。


「すみません、コイツ馬鹿な節操なしなんで…」

『は、はぁ…』


いきなりの飛び付き方に呆然としていた彼女。
ずぶ濡れのティムキャンピーが俯せに伸びきったラビの上を、端から見れば体を拭きながら転がるように遊ぶのを心配そうに見たが、アレンに促されて渋々放置して苦笑する。どうやら気には障らなかったようなのでアレンは一人安堵した。


「改めてはじめまして、アレン・ウォーカーです。今潰したのがラビ、その上にいるゴーレムがティムキャンピー、そこの目つきの悪いのが神田、後ろにいるのが僕の監視役のリンクです。よろしくお願いします」


にっこりと笑うアレンに彼女も微笑む。


『よろしくお願い致します。エクソシスト様方に、監査官様』


気のせいだっただろうか、『監査官様』の所が強調されていたように聞こえたのは。
リンクがすっと目を細めるのを神田は横目で見ていた。

その横でアレンは様付けなどせずに名前を呼び捨てにしてほしいとシーに頼み、彼女は彼女で『とんでもない』と拒否をしていたが、結局は根負けして渋々承諾していた。


「うっ…痛ぇ…」

「あ、気がついた」


もぞもぞと動き出したラビは打撃された頭を抱え、彼に文句を言いながら起き上がり座ると、心配そうな顔で自分の前に膝をついた彼女を見る。

「えーと、もう名前言っちゃった?」

『え?』

「な・ま・え!君の名前さ」

『あ、いえ。探索部隊である私如きが名乗る程でもありませんし』


どうやら彼女は自分を蔑ろにしてしまう性格のようだ。
アレンとラビは渋い顔をしたものの、敢えては触れなかった。


「名前、分からないと呼べないさ」

『“探索部隊(ファインダー)”と呼んでいただければ、ご用件の際に参ります』

「だーめ、名前じゃなきゃ呼ばない」

「うん、僕も名前じゃなきゃ呼ばない」


口を尖らせて言うラビと、ティムを頭に乗せてしゃがむと同時にどこか黒さを漂わす笑顔で言ったアレン。彼女は僅かに困ったように眉を寄せた。


『……シー』

「シー?」

『シーと、呼んで下さいませ』


伏せ目がちに言ったシーに、二人は満足そうに破顔した。



シーは三人が手元の資料の既読を確認すると、彼らを第一の現場に案内すると言った。広場で落ち合ったのは現場に一番近かったためだ。


『では此方へ』


道案内にと先頭に立つために彼女は神田の横を通った。その彼女が纏っていた微かな臭いに、彼は眉間の皺を増やして呼び止めた。


「お前、死臭がする」


シーは一瞬首を傾げたが、直ぐに苦笑を浮かべた。


『早朝から現場を回っておりましたので。申し訳ありません、不快に感じられますよね』


彼女は深々と頭を垂れた。
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墮天の黒翼

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