思わぬ言動にナイフを持つ双子とそれを止めたリンクの腕が下がっていた。皆が耳を疑う中、彼は双子を交互に見る。


「君達の事情は、なんとなくだけれど分かったよ。僕は殺されても文句は言えない。
平気な顔をして生きる日々も、やるせなさで一杯なんだ…。
やりたかったことはもう終えた。AKUMAにしてしまった彼らに償いたい」


ティムが困ったようにアレンの横を飛ぶ。彼を見やり、レイガンは苦笑する。


「すまない、君の望みには反してしまうけれど…」


やがて口を開いたのは切り裂きジャックだった。


『やりたかったことって、何』

「僕は…妻子に逃げられてね。僕が原因で怒らせてしまってそれきり、ロンドンに行ってしまった。その日、戻って来てくれるように謝ろうと思ってロンドンに行った。そして、妻子が事故に遭ったと、知った。暴走した馬車が彼女たちのいた店に突っ込んだ、と…」


多数の死者を出したものの、辛うじて生き残った妻と我が子はこのままでは死んでしまう。莫大な治療費が用意できそうにない者の治療は途中で止められていたからだ。でも金があれば治療できる、助かる。駆けつけた家族の入院する病院の医者からそう告げられたとき、希望に沸き立ち、絶望した。提示された金額など、自分の店では到底用意できなかった。
絶望に駆られてロンドンの街にふらりと出たとき、出会ったんだ。


「我輩に協力していただければ、貴方の希望する金額を用意して差し上げマス」


「その後はもうただ流れていくだけだった。全てが終わって初めて罪悪感に襲われたんだ。僕はただ、最愛の家族を守りたかった…、僕の“世界”を守りたかった。でも僕は手段を違えてしまった。家族は助かった今、僕は…彼らに償いたい」

『“世界”を、守る…』


ドッ、と音を立てて刃が床に突き刺さった。双子の手から滑り落ちたのだ。
濡れる頬は片割れに拭われる。


『全然、面白くない』

『人殺しなんてやりたくなかった』

『でも殺さなきゃ認めてもらえなくて…』

『自分達に嘘を吐いて任務を遂行してきたのに…』

『要らないって…』

『私達はただ、一緒に、笑って、泣いて、怒って…』

『喜んでくれて、心配してくれて、褒めてくれて…』

『あの頃に戻りたかった…』

『家族に認めてもらいたかった…』

『必要とされたかった…』

『一緒に生きていきたかった…』

『私達は、私達の“世界”を、守りたかった…』


俯く二つの影は一つになり、リンクの影に溶け込んだ。

飛べない鴉は、ただ泣き続けた。声が嗄れるまで、その翼が濡れるまで。
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墮天の黒翼

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