驚いた表情もほんの一瞬。見慣れたシーの柔和な面影はどこにも無かった。
『なぁんだ、バレちゃってたんだ』
くすくすと口元に手を当てて笑い出すその紫苑の双眸に冷酷が宿る。
『バレちゃったからもうフードの意味は無いよね』
そう言うと、ラビに鉄槌を突きつけられていた切り裂きジャックがフードを取る。
「やっぱり、双子か…」
そこにもまた、“シー”がいた。
此方もくすくすと口元に手を当てて笑う。
『きっかけはやっぱり、あの咳を聞いたから?』
「そうさ。気のせいだと思いたかったけど…、俺は聞き間違えることは許されないからな」
『勿体無いことをしちゃったなぁ』
『でもさ、私達がこっちを選ばずに酒場に行っていたらどうしていたの?』
「あっちはまだ客がいる時間だろ。そんなときには行かないだろうって賭けたんさ」
『そっかぁ』
『おめでとう、大当たり』
笑うことを止めない二人から滲み出る狂気に鳥肌が立つ。
喉を捕らえられたこの状況では普通笑えない。
この程度は痛くも痒くもないということか。
「ヘイゼル・キースの家でも訊いたけれど、君達は何者なんだ?AKUMAではないよね」
「ノアでもない。AKUMAに襲われる演技をしてもメリットは無いだろう」
笑顔を絶やさない二人は合わせ鏡のように小首を傾げる。
『それを私達に訊くなら』
『ハワードから聞いた方が面白いと思うなぁ』
「リンクに…?」
“ハワード”と呼ぶくらいだ、ある程度親密な関係であることは明らかだ。
寝室の入り口に立つリンクにエクソシスト達の意識が集まる。
「…二人は、元鴉部隊です」
目を伏せたままの彼は無表情を取り繕っていた。
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墮天の黒翼