ヘイゼルの自宅からかなりの距離を走って来たにも関わらず、切り裂きジャックの逃げ足はスピードを落とさない。大した体力だと思うのと同時に疑問が神田の頭から離れない。

先刻あの切り裂きジャックは彼の息をも吐かせぬ猛攻を掠りもせずに見切り、間合いをすり抜けてアレンの後ろを取った。
それ程の能力を持ちながら、逃走中に彼へ一切攻撃をして来ないのだ。

どこかに誘導させられているのだろうか、これは罠なのか、分からない。

中央街区を抜けて東街区の路地を走り、開けた広場に出た背中に一撃を放つ。
しかしそれらは突如乱入した客によって標的の姿を捕らえられなかった。

ズンッと地響きを鳴らすように小さな塊が空から降って来た。
予期していなかったのか、その衝撃で吹き飛ばされた切り裂きジャックは体制を崩して地面に転がる。

土埃の中に立ちはだかったのは一体のレベル3。


〔よぉ、追いかけっこか?オレも混ぜろよ〕


ニタァッと笑むと神田に矢程の無数の針を飛来させた。そして何故か切り裂きジャックにまでそれは襲いかかる。

神田は避けた針が地面を抉るのを視界に入れて切り裂きジャックとAKUMAを見やる。


〔オレの攻撃を掠りもせず見切るなんて大した人間だ!でもその動きもいつまで保つかなぁ?〕

(あれは…ノアではないのか…?)

辛うじてAKUMAの攻撃を避け続ける黒い塊は心なしか焦っているようにも見える。

千本の雨が降りしきる中、後方から微かに聞こえたラビの声。
六幻を構え、切り裂きジャックに注意を向けたAKUMAを一刀両断した。

破壊の衝撃で爆風が生まれ、体が吹き飛ばされる。体制を立て直して着地した所に彼が駆け寄った。


「大丈夫か?」

「誰に言ってんだ」

「だよな」


苦笑するのを無視し、巻き上がる土埃に目を凝らす。
切り裂きジャックのものだろうと思われる瓦礫をよたるように踏みしめる微かな音。そこから一度だけ小さな咳が聞こえた。それを機に煙に紛れて逃げて行った。

逃がしたことに神田は苛つきを覚えたが仕方がない。六幻を鞘に戻すとヘイゼルの家へと引き返そうとした。
ふとラビを見ると信じられないと言ったような顔で呆然と立っている。
訝しげに見やれば彼は顔を歪めて重そうに唇を開く。


「…ヘイゼルの家から此処まで、切り裂きジャックを一瞬でも見失ったりしたさ…?」

「あ゛?するわけないだろ」


何を言っているんだと苛立てば、ラビは俯きがちに唇を噛んだ。


「…今から言うことは俺の推測さ」


闇夜に響くラビの静かな声。

手にしたこの光は、偽りと真実、どちらを照らすのだろう。
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墮天の黒翼

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