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「意外だったか?」

今後の話を終え、一息吐けばそうフォーが訊いてきた。眉間に皺を寄せて先を促せば頭の上で手を組むような体勢でニッと笑う。

「あたし達が手合わせしていたのを見て驚いていたからさ。大方新藤ってあんなに動けるのか、とでも思っていたんだろ?しかも目隠しをした状態で」

図星だ。
読まれたのが気に食わなくてムッとしても、コイツは笑ったまま。

「そこら辺の男よりは遥かに強いぜ?昔からあたしが鍛えてやってんだから。この間まで相手をしてやっていたウォーカーよりもセンスがいいし、何より根性がある。負けず嫌いだからな。きっとお前が相手をしてもいい勝負をするさ。後で手合わせしてみろよ、やったことないんだろ?」

正直あまり気は進まない。体術に長けていることはいいことなのだが、いくらエクソシストとはいえ、基本新藤は後援タイプだ。彼女の声が聞こえる範囲のAKUMAは例外無く餌食になる。直接的な戦いはほぼ皆無だ。前線に立つ、セカンドエクソシストの俺と手合わせしても大丈夫なのだろうか。
それに、フォーとの鍛錬が対人間用にしてもかなり高度なことを追求している気もする。

「もしかして、神田は彼女のイノセンスの有効条件を知らないのか?」
「有効条件?」
「知らなかったのか。彼女のイノセンスは万物を無条件に支配の対象には出来ないんだよ。
神田は声、即ち音による空気の振動が対象を操ったり破壊していると思っているだろう?」
「違うのか?」
「あぁ、少し違う。それはクロス元帥が所有しているイノセンスの力だと思う。
彼女の場合は声を発した瞬間に力を特殊な電磁波に変換する。その電磁波がAKUMAの機械の回線や人間の脳の電気回路を浸食して初めて支配が成立するんだ」

バクは元々持っていたファイルから白紙を一枚抜き出すと、図を描きながら説明し始めた。

「違いは対象の中に侵入してから電気信号に変換するか、発生した瞬間に電磁波に変換するか、というだけだがな。だがその違いは大きい。
音の場合は強弱があるものの、音源を中心として基本的に広範囲の扇状に伝わる」」

[A SOUND SOURCE]と添えられた二重丸を一つ描くと、そこから同心円状の孤を描いていく。発生源の向きによる音の進行方向と範囲を表しているらしい。

「ところで、真空で無い限り世界には必ずと言っていい程電界と磁界に溢れている。まぁ、簡単に言えばそれらが互いに影響して電磁波となり、空間を振動させて次々と周囲の空間に広がっていくんだ。エネルギーの放射現象ともいえる」

何やら振り幅の違う二本の波線を描いた。これが電界と磁界を表すらしい。
また別の場所に[INNOCENCE]と添えた丸を一つ描いた。それを起点に一本の直線を引くと矢印にする。

「電磁波は障害物があっても特別な素材で無い限り、あらゆる物質を通り抜ける。新藤が森の中でイノセンスを使っても標的を的確に捉えられるのはそのためだ。力が音によるものならば、木々が障害物となって標的まで届かないからな。
但し、彼女の発する電磁波は音と違って進む方向がほぼ直線と決まっているといっていい」

先程と同様に丸を起点として直線を何本か引き、矢印に変えていく。

「要するに力の影響範囲がかなり限定的だということだ。彼女の場合、対象物の存在を認知しなければ力の向きが分からない」
「あーもう解り辛ぇな。最初っから“新藤が対象を自覚しない限り、それを仕留められない”って言やぁいいじゃねぇか。神田の顔見てみろよ。意味解んねぇって顔だぜ」

ムカつく…。事実だから余計に。フォーが要約しなければ理解できなかったのは否定できない。
指摘されて瞠目したバクは一回大げさに咳払い。

「本人曰くレベル3は認識した上で ある程度の距離も把握しておかないと完全な支配下に置けないらしい。それと、エクソシストは名前を言わないと駄目だとも言っていたな」

強すぎる力故の制限だろうな、と零すバクが言う中回想する。
確かに【命令】されるときはいつも『神田』と呼ばれていた気がする。

「とにかく、テメェの身の安全を保証するにはテメェの感覚が優れていないと駄目だってこと。偶にはイノセンス同士じゃない修行もしてみろよ。新藤の戦い方、参考になるかもしれねぇし。本人にとっても勉強になるだろうからさ」

小さく寝息を零すその横顔に期待してみようか。

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