68 |
「起きていたのか」 『え…?』 (嘘…) 少し驚いた顔をする神田に私は固まってしまった。 「…何だよ」 『あ、いや…、もしかして…何度も来たのか…?』 「何度もというか…、毎日来ていた」 『そ、そうか…。すまない、知らなかった…』 だから驚いたのか、と納得したらしい神田が此方に来ると、山積みの本で座れない椅子の代わりにベッドを勧める。 神田の重みだけマットが沈むのを感じるも、混乱状態の頭では何と声をかければいいのか、全く浮かばずにどうしようもなくて、俯いたまま沈黙してしまった。 「今は眠くはないのか」 此方に顔を向けることなく掛けられる言葉が沈黙を裂く。 『あ、あぁ。まだ眠くない』 「疲れは」 『多少、あるけれど…、平気』 (駄目だ、ぎこちなさ過ぎる。もっと、言わないといけないことは山ほどあるのに。 最後、なのに…) 『…あの、』 「何で言わなかった」 形無き刃で貫かれる感覚。その広い背中から伝わる、負の心。 言葉が喉に詰まり、直ぐに出て来なかった。そんな私に呆れたのか、神田は小さく息を吐く。 「言いたくないなら、言わなくていい」 『…』 この言葉に甘えられたら、どれだけ楽なのだろう…。 瞼を下ろし、そっと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。ゆっくりと、散らばる思考と言葉を拾い集めた。 『いや…、ちゃんと、話すよ…。私は神田の過去(こと)を、知っていたんだ。お前にも、知る権利があると思う。 どこから、話そうか…』 伝えることで、けじめをつける。 もう、二度と…。 |
<< >> The Diva of submission |