03


「あらン新藤ちゃんお帰りなさい。今日は何にする?」
『Cセット』
「はいはーい。ちょっと待っててね―」

不機嫌そうな彼女に気軽に声を掛けられる者など限られている。その貴重な人材の一人である料理長は、今日の定食にフルーツを盛った小皿を加えた。

「はいお待ちど〜ん」

一瞬眉間に皺が寄った彼女をいつもの笑みで席へと送り出す。料理長を一瞥し、出来上がった料理を手に席を探した。
昼時で混雑している食堂にドーナツ化現象の起きているエリアが一つ。
中央ではどうやらアレン=ウォーカーと神田ユウが殺り合おうとしているらしい
どうせいつものことだろう。そんなことは自分には全く関係が無いため、その空いた席に座わって食事を始めていた。そこに駆け寄ってきたのは、これまたいつもの仲裁役の幼馴染。

「月精お帰りなさい。疲れているところにごめんね、あの二人を止めてほしいの」
『いつものことだろう。やらせておけ』
「またそんなこと言って…。周りが迷惑しているから、お願い!」

溜息を一つ零してから手にしていた箸を置く。
意識を二人に向け、低音で彼らの名と【命令】を紡いだ。

【アレン、神田、今すぐ止めろ】

ビクッと振り上げた両者の腕が止まった。そのままの体勢で筋肉の動き一つ見られない。完全に硬直しているのだ。

「チッ 新藤の奴…!」
「仕方がないですね、月精が止めるなら」
「命拾いしたな」
「そっちの方でしょ」

両者共に火花を散らしていたが、リナリーのお叱りで漸く終結した。
【命令】から解放された二人は別々に食堂を後にしていく。

「ありがとう月精」
『別に。ごちそうさま』

空になった食器を手に立ち上がると、後ろからリーバーの申し訳無さそうな声がかかった。

「新藤、司令室に行ってくれ」
『分かった』

物を返すと踵を返し食堂を後にする鋭利な刃を思わせるその姿を、様々な思惑の瞳が映していた。

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