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あれ?と食事後のお皿を眺めた。
ちょこんとお皿の隅っこに置いてあるのは、今日のサラダに登場したプチトマト。それだけが、手付かずのまま一つだけ残されていた。確か、そこの席に座っていたのは不動君だったような…
それなら、このトマトをこのままにするわけにはいかないと思って、彼の部屋に乗り込んだ。
「不動君!!」
わたしがノックもせずに部屋に乗り込んだせいだろうか、彼はひどく驚いた表情をしていた。
「お前っ!?何勝手に入ってきてんだよ!」
「そんなとこはどうでもいいんです!不動君、これはなんですか?」
ずいっと彼の目の前に差し出したのは、あのテーブルの上にあったトマトの残されたお皿。
「これが何だってんだよ?」
「これ、不動君のお皿だよね?」
そう言い寄るわたしを不動君は面倒臭そうにああ、そうだよ。と二言で片付けた。
「トマト、残ってるよ。」
「残したんだから、残ってんのは当たり前だろ」
「ダメだよ!ほら、ちゃんと食べて!」
「あーうっせぇな…」
それだけ言うと、不動君はそっぽを向いてまた眠りにつこうとした。
「ちょっ!不動君!!不動明王くーん!ふど…」
「あーっ!うっせぇな!わかったよ!食えばいいんだろ食えば!」
そう言い放つと不動君はトマトのヘタの部分を掴んで、ジッとトマトをにらんでいた。
「…食べないの?」
「う、うっせぇな!」
ちょっと黙ってろ…と言いながらも不動君の手は一向に動く気配がない。
「あの〜不動君」
「何だよ?」
「食べられないなら、食べさせてあげようか?」
……。
沈黙が流れた。
確かに、今のはちょっと言い過ぎたと自分でも思った。おまけに、かなり恥ずかしい。
「…いいんじゃねぇの…」
「ははは、だよね、不動君がいいって言うなん…って!」
えぇっー!と、思わず声を出してしまった。
だって、あの不動君が…あの不動君が、まさかOKするとは思わなかったから余計にびっくりした。
「ほらよ。」
グイッと押し付けられたのは、さっきまで不動君とにらめっこしていたトマト。今度は、わたしとにらめっこするはめになった。
「じ、じゃあ!不動君目閉じてよ」
「何でだよ?」
「は、恥ずかしいでしょ!早く目閉じて!」
仕方ねぇな、と言い終わると、フッと口角を上げて笑い不動君は意外と素直に目を閉じてくれた。
「じ、じゃあ、あ、あーん?」
「何で疑問なんだよ。」
「別にいいでしょ!早く食べて!」
ズボッと、勢いに任せて、トマトを不動君の口に突っ込んだ。その瞬間、ああ、悪い事したな…と辛そうにトマトを飲み込む不動を見て思った。
「ふ、不動くーん。だ、大丈夫?」
「大丈夫な訳ねぇだろっ!」
「っ!!!」
その刹那、唇に何か温かいものが触れたのを感じた。おまけに、不動君の顔がすごく近くにある。
気付いた時には、不動君が口直しといい、口角を上げて笑っていた。
あー、わたし、不動君にキスされたんだ。
そう気付いた時に、わたしは合宿所内に響き渡るような叫び声を上げていた。
甘味注意報
(初めてのキスはトマトの味でした。)