島田君はいい人だ。優しいし笑顔も素敵で嫌な顔一つしない。とてもいい人だ。


「雫ちゃーん!!」
「かっずーったらやかましー死ね」
「ひでぇ…」


休み時間がくると私の机に突進してくる高尾君をぼんやり眺める。
鶴ちゃんが長く艶やかな髪をかきあげ溜め息を吐き、じとりとした視線が高尾君を見詰める。


「…机の足にひっつくのやめなさいよ」
「えー嫌だー」
「餓鬼か!みっともないな!!」
「いや、ちゃんとこっからみるアングルとかも考えてー」
「成敗っ」
「いっだ!!」


どこからかでてきた分厚い辞書が高尾君の脳天に直撃する。分け目にそり真ん中にクリーンヒットしたためかなり痛そうだ。思わず手を伸ばしてしまった。
不自然に伸びた手は行き場を無くして宙に浮く。静かに戻そうと手を引いた時だった。


「…雫ちゃん?」
「あ、」


涙目の高尾君が私の手をとる。なんてこったい、ばれてしまった!!
視線も手も行き場を無くし俯いているとするすると高尾君の手が私の手を弄る。ひゅっと思わず息を止めてしまった。


「心配してくれたんだーありがとね!」
「…あ」
「ていうか雫ちゃん綺麗な指してるね、真ちゃんぐらい細くて綺麗な」
「たかおく、て……」


おでこを机に引っ付けて顔の赤みをばれないようにする。流石にずっと手を弄られているのは恥ずかしい。
それでも好きな人に触れて貰う事はとても大切に思いどうしようもない感情が浮き上がる。
高尾君の隣がいい。

ガタンッと大きめの物音がたち思わず顔を上げた。髪を片手でぐしゃりと押し上げる高尾君が深い深い溜め息を一つ吐いた。


「島田俺と席かわれえ!!!!」
「許可を得れていない席替えしたら俺評価下がっちゃう」
「うるせぇ!!別にいいだろお前の評価ぐらい!!死なねーよ!!」
「お前は死ぬのかよ!!」
「ああ死ぬね超死ぬね!!だから席かわれ!!」
「嫌だ!!」


いきなり島田君と口喧嘩を始めた高尾君を呆然と眺めていたら鶴ちゃんが私の耳に口を寄せた。


「…雫、声にでてた」
「…なにが」
「………かっずーの隣がいいとかなんとか……って落ち着いて雫!!お願いだからベランダから飛び下りようとしないでええええ!!」



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