島田に心を折られたハンデを背負い、百メートルに挑んでも一位をとった。誰か俺を褒めてくれ。
そんなわけで次でる競技まで時間があるしふらふらと散歩したわけなんだけど。


「…雫ちゃん」
「あ、高尾君、どうしたの?」
「あー、雫ちゃんは?」
「水汲んできてって保健の先生が」


バケツにばしゃばしゃと当たり水が跳ね返る。暫く置いておけば量が増えて音がしなくなった。
なんとなくいたたまれなくなり無理矢理笑ってみせる。雫ちゃんからのありがたいお言葉もあり笑顔には自信がある方だ。


「じゃあ俺、もうそろそろいくわ」
「あ、ちょ、ちょっとまって、すぐ終わるから!」


珍しく声を上げた雫ちゃんが蛇口を捻り水を止める。ぽちゃんと水滴が落ちてから雫ちゃんは緊張したように口をあけた。


「少しだけまってほしい」
「…え?」
「高尾君の事を知りたい、けどまだ理由はいいたくない、ので、もう少しだけ何も言わずにいてほしい」


喋るにつれて声が小さくなりどんどんと俯く、完全に視線があわなくなり、少し沈黙した後、また雫ちゃんが口を開けた。


「私の所為なんだけど、私の勝手なんだけど、高尾君にずっと笑顔でいてほしいし、高尾君の笑顔が私は好きで、えと、だから、高尾君は笑っていてほしくて、だからまってほしくて、」


うまく言葉にならないのか途切れ途切れに話す台詞を一生懸命に追う。あと今の俺は阿呆面で笑ってもいないから俯いていてほしい。


「と、にかくっ、少しだけ待って、ほしい、です…」
「……あ、はい」
「じゃ、えと、これからもよろしく…」
「……あ、はい」


俯いたままバケツを持ち走り去っていった雫ちゃんを見送り、そのままそこに座り込む。
少し前から隠れていた鶴ちゃんが俺の肩を優しく叩いた。


「…いいたい事はわかる」
「…いままでかなり本気で好きだったんだけどさ」
「うん」
「…ちょっと洒落にならないぐらい好きになったんだけど…」
「…うん」


俺に笑顔でいてほしいなら笑ってよ、ちくしょー!!



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