紅茶に砂糖を二杯、ミルクを一杯落としかき混ぜる。珈琲を頼んだ鶴ちゃんは何も入れず一口飲み、ラズベリーのムースケーキにフォークを刺した。
ミルフィーユを食べながらポツポツ話す、バスケ部の見学にいった事、高尾君がかっこよかった事、美亜ちゃんに会った事、美亜ちゃんが高尾君を好きだという事、あの日から気分が優れない事、
全部話し終わり顔をあげる、鶴ちゃんは、


「……」
「……」


鶴ちゃんはもの凄い顔をしていた。


「雫、一松乙夫さんの作品好きだよね、あの人ホラー作家でも恋愛ものかくよね、主人公の心情理解してるだろおおおおお!!」
「えええええこれ恋なのおおおお!?」
「恋だろおおおおお!!」


恋、それはつまり、美亜ちゃんが高尾君に抱いてるそれで、私は高尾君に恋をしているわけで、

「雫ちゃん気持ち悪い」
「美亜ちゃん嫌がってるよ」
「私達もう雫ちゃんと遊ばない」


「……違うよ」
「へ?」


違うよ、鶴ちゃん、恋なんて綺麗なものじゃないんだよ、私が高尾君に抱くのは憧れと嫉妬だよ、ねぇ鶴ちゃん、私は美亜ちゃんとか違うから。


「鶴ちゃん、これは恋じゃないよ」
「…、」


驚いたように目を見開いた鶴ちゃんだったけどすぐに目を細めた。違うよ、違うんだよ、鶴ちゃん。
いつの間にか、珈琲を飲み干していた鶴ちゃんは、ラズベリーのムースの最後の一口を口に含んだ。


「ねぇ雫、夏祭りにいこう」
「うん」
「夏祭りにいってさ、もっかい自分の気持ちを考えてよ」
「……うん」
「最後に一松先生の台詞をお借りして雫に一言」
「……」


恋じゃない、私はそんな綺麗な感情をもてないし、きっともてない、笑いもできない私がもつ感情がなかったんだ。
私と美亜ちゃんは全て違うから。


「恋愛する事の何が悪い」


私が高尾君に抱く感情は恋ではないんだ。



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