今まで恋愛なんてした事がなかった。

中学三年間をバスケに注ぎ、空いてる時間を遊びと勉強にあてた俺は、恋愛をする時間を削った。
好きになりそうな子は好きと自覚する前に俺を襲いかかるという行動で好きになる前に恋心は砕けちった。
俺は中学二年生には感じていた。

あ、俺恋愛無理だわ。

別に自分の顔や性格を卑下するわけではない。むしろそれなりにいいとすら感じている。
でも、無理だ。可愛らしい告白ならまだしもいきなり服を脱がしにかかる女子は好きになれなかった。
いつの間にか俺にはホモ疑惑ができたけども。


「おはよう鶴ちゃん、高尾君、緑間君」
「おはよー雫、表情固い固い」
「おはよう、門田、本を返す」


俺は今、隣の席の女の子、門田ちゃんに心を奪われかけている。
無表情、文学少女、帰宅部、真面目。だけならいいのだが、この子、爆弾を持ってきては爆発してくる。
恥ずかしくねーの!?って思う事を無表情ですらすら言うのだから俺はいつも視線を泳がせる事しかできなくなる。

ああもうどうしろっていうんだよ。


「高尾君」


不意討ちに名前を呼ばれて少しびびる。おお、噂をすればなんとやらという奴である。
なあに?と笑って返せば、少しだけ困った表情を向けられた。


「スマイルノート頂戴」


黄色地にマジックでニコちゃんが書かれたこのノートは俺が作ったスマイルノートという物である。
笑顔指導のため一日一日今日の表情についてこれにかいて門田ちゃんが渡してくれる。なかなか面白い事を書いてくれるので表情の事より一言欄を楽しみにしてるのは内緒だ。


「はい、いやー、門田ちゃんの夢毎度毎度凄いわあ」
「え、なになに、おしえて!」
「昨日はシュモクザメがサラリーマンとして働いてる夢をみました」
「ちょ、なにそれ!!」


爆笑しだした鶴ちゃんをみて俺も吹き出しそうになる。いや、シュモクザメがサラリーマンはねーよ、うん。
不意に門田ちゃんを見れば、少し悲しいような顔で鶴ちゃんをみていた。夢の事、掘り出すのはだめだったか?と思ったが、そうではないみたいだった。


「…門田ちゃん、飲み物買いにいこう。真ちゃんはおしるこだろ、鶴ちゃんはココアだろ」
「うん、かっずーだけでいけ」
「ひっでぇ!…いこっか」
「……はい」


恋愛なんてした事ない。でも、門田ちゃんの違和感は拭えない。



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