「…」
「…雫ちゃん」
「なに!」
「…俺、とって食わないからちょっとぐらいガード緩めていただけます!?」


隣で歩くのはいいがその距離約一メートル、遠すぎ、なに?なんなの?付き合ったのに退化してるよね?進化してないよね!?


「べべ別にガードしてないよ?」
「じゃあ俺がひっつく」
「やめて」
「なんで!!」


何故この仕打ち、どうしてこの仕打ち、酷い、酷すぎる、別に俺いただこうなんてしてないじゃん!!
一緒に、出来れば手を繋いで帰りたいだけじゃん!!
「ぐっ」と言葉につまって視線をそらした雫ちゃんを見つめる。こういう時俺は目力がよくなった気分になる、ついでに黙りこんだ雫ちゃんも可愛い。


「…さ、寒いのに」
「寒いのに?」
「……て、手に、その、…汗、をかいてしまい、まして…」


だから、その…と語尾が全く聞こえないがとりあえず俺も力が抜けてしまい、鞄が肩からずり落ちた。


「…それでも全然構わない!!」
「私が構う!秋なのに汗ばんだ恋人繋ぎとか嫌だ!」
「恋人繋ぎしていいの!?」
「だから手を繋がないって!」


夕焼けが綺麗な秋空の下、こんな討論をして何になるのか、色んな意味で此方も我慢の限界でもあるので雫ちゃんの右手を掴めば大袈裟に肩を跳ねさせた。


「…手、繋いで、いい?」
「…ぁ………汗ばんだ手の、どこがいいの…!」


オレンジ色の夕焼けの所為なんかではなく、雫ちゃんも俺も顔を赤くして、十月後半の寒空の中、汗ばんだ手を絡ませた。


「…高尾君」
「なに?」
「…こんな時、どんな顔をすればいいだろう…」


あまりにも色々な事があり、若干混乱してるのか、目に水が薄く溜まっている。流石にこれ以上泣かせたらお父さんに殺されそうな気がするので雫ちゃんの手を強く握った。


「笑えばいいと思うよ!」


どこかで聞いたフレーズを笑っていってやれば、きょとんとした顔をした後、雫ちゃんが吹き出した。

笑えばいいと思う、俺が笑顔をみたいから。



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