「まて、って!!」
「う、ぎゃあ!!」


走り出した、というより逃げ出した雫ちゃんの腕を引っ張る。あっぶねー、もうちょっと反応遅れたら捕まえられないところだった…
いや、そんな事より、


「おかしくね!?呼び出しといてそれはないよ雫ちゃん!!」
「高尾君離して、大丈夫全てそれにのってるから、安心して全てそのとおりだから離しておくれやす!!」
「いや無理!!」


所詮雫ちゃん、所詮女の子、伊達にバスケ部やってるわけじゃないので片手で雫ちゃんの腕をひっつかみながらスマイルノートをべらべらめくる。


「もう離してってー!」
「いーやーだー!!」
「そこにあるからさあ!!」
「っ、もう、逃がさねえって!!」
「うっ…」


いきなり力が抜けたのか俺の腕力に逆らう事なく後ろに二歩、よろけるように下がった。
今の内にと、めくりにくいが片手で速読の様にパラパラとめくっていく、鉛筆だかシャーペンだかわからないが、黒の筆だらけのなか、最後の方のページに淡いオレンジ色の文字があった。


「…っ」
「ひゃ!」


思わず息を飲む、そしてその文字に若干怒りを覚えながら雫ちゃんの腕を思いっきり引っ張る。俺の方に倒れこんだ雫ちゃんが逃げないようにきつめに抱き締めた。


「たっ、かお君!」
「…わかんねーよ!」
「え、」
「『私もです』だけじゃわかんねーよ!!詳しく、口でいって!!」
「あっ、うっ……!!」


勿論その文字がどういう意味かわかってるし、死ぬほど嬉しい。
だけど、俺は我が儘で欲張りで心配性だからこの文字じゃあ満足なんかできない。


「それは、察してよ…!」
「無理」
「高尾君わかってるでしょ…」
「わかんね」
「嘘つ、…き…」


耳まで真っ赤にした雫ちゃんの勢いがいきなり収まった。
何事かと下をみれば、俺の手が若干震えているんだから、本当、情けない。いや、情けないのはしってたけど、もう情けないんだから何もすてる物なんてないわけで。


「雫、言って、言って、お願い」
「…ぅ…」
「お願い、言え、一回でいいから」


手どころか声まで震えてきて、抱き締める力をさらに強くする、もしかしたら潰してしまうんじゃないかなんて下らない事を思いながら雫の返答を待つ。


「…だから」
「うん」
「……私、は」


雫の声も震えて、俺も情けなく震えて、俺も、多分彼女も身体を熱くして、速く心臓を高鳴らせて。


「私は、高尾君が、その、好き、…で、……も、高尾君が大好きなんだよ!」
「うん、俺も雫が大好き」


後ろ向きから、身体を回して正面から抱き締める、抱き締める直前に見えた、雫の顔が今にも泣きそうで、心の中で「笑え」なんて呟いた。



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