「先生はどうなんだ、どんな先生なんだ」
「普通に、良い先生ですが…」


結局は、拗れに拗れたハッピーエンドになる。


「そもそもお前と雫はなんだ?ただの友人に…しかも男、好きでもない奴に雫があんなに懐くとは思えん」
「あっ、そこは触れないでください、ちょっと死にたくなるんで!」


ぐりぐりねちねち傷を踏まれる。畜生、なんなんだよ…
でも大丈夫だ。これで雫ちゃんは今日も幸せだ、お父さんとも無事に付き合えるようになる。


「あの、雫…娘さんの事、嫌ってはいないんですよね?」
「娘を嫌う父親がどこにいる」
「です、よね」


ならなんで心配の声をかけないんだ。雫ちゃんが荒むってよっぽどだぞほんと…


「雫に、嫌われているからな」
「…へ?」


吐き捨てるように呟いた小さな声に、思わず間抜けな声がでた。
嫌われている?そりゃあ、まぁ、そう、なのか?

いや、違う様な気がする。雫ちゃんはお父さんの事、嫌いっていうより、もっと簡単に、


「情けない事に、昔から仕事しかしてこなくてな、雫に父親として何もしてやれなかった。雫も妻に任せていた方が幸せだろう…」
「な、」
「十分な資金だけ収めておけば雫も何を文句はない」

「っ、そんな事、ないです!!」


考えも言いたい事まとまらないままに声を張り上げる。でも今、ただ返事をするだけなったなら、二度と雫ちゃんは変わらない様な気がして、雫ちゃんはきっと、お父さんに、


「雫ちゃんは、ただ、純粋に褒めてもらったり、甘えたいだけなんだと、思い、ます、!」
「…は?」
「…俺も、あんまりわかんないんですけど、普通にお父さんと話したいだけなんだと思うんです。…普通に、叱られるんじゃなくて」


俺の考えに過ぎないが、きっと、雫ちゃんは普通にお父さんと娘になりたいんだ。叱られるんじゃなくて、学校の事を話したり、テストの点数を褒めてもらったり、優しいお父さんが欲しいんだ。


「だから、雫ちゃんに、一言でも頑張ってると認めてあげてください、雫ちゃんはその一言が欲しいんです」


シン、と静まるリビング、口に溜まった唾を呑み込む音も鮮明に聞こえる。


「…高尾といったな」
「は、い」
「雫がいつもお世話になっている」
「え?いや、そんな…」
「娘に手を出すなよ」


そういってお父さんは軽く笑った。

…笑顔は少し、似てなくもない。


「あとお父さんと呼ぶのをやめろ、不愉快だ」
「あ、すみません雫ちゃんのお父さん…」
「おいかわらんぞ」



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