「…門田さんが死んでる…」


島田君に呼ばれて久しぶりに意識が戻った。


「あ、あぁごめんね島田君…パン?フランスパン?」
「ごめんなにいっているかわかんねーわ門田さん」
「パン……フランスパン…」


だめだ、頭の中がフランスパンで一杯だ。…なんだかもう死にたい。


「だいじょーぶ?門田さーん」
「うん、大丈夫だよ、島田君…」
「高尾」
「ひいいいいいいい…!!」
「たった一晩で高尾をお化けの様に怖がるね」
「だ、だって、だって」


あんな事いきなり言われて動揺しないわけがない。昨夜からずっと息苦しいし私はもうどうしたらいいのかもわからない。
高尾君が好きだ、今すぐ私も好きだと伝えたい。でも伝えたらだめだ。結局は高尾君に迷惑をかけてしまう。


「…ほんと、どうしよう」


なんだか泣けてきた。嬉しくて飛び上がりそうなのに不安にしかならない。好きの伝え方も受け取り方も私にはわからない。
結局、何も知識がない私には何もできないんだ。


「…なんで門田さんはさ、悩んでるのさ」
「…だって、高尾君が…」
「高尾はいつも通りだよ」
「………へ、」
「いつも通り、門田さんが大好きなただの男子高校生だよ」


頬杖をつきながら、微笑混じりに島田君は呟いた。
なにがいつも通りなんだ、いつも通りの高尾君は、もっと、

もっと


「いつだって高尾は門田さんに優しくて、頼られたくって、全部知りたがってる馬鹿だよ」
「でも、いや、」
「そうやって門田さんが隠して背負い込むのが高尾の迷惑だよ」


そうだって言われても、こっちは息が詰まるぐらいに苦しいんだ。
そんな簡単にいえない。信じる事も助けを求める事も私にとっては不安要素の塊なんだ。

『好きだよ雫ちゃん』

くらくらする。


「高尾、ちょっと運ぶの手伝えー」
「えー…うぇーい」

「…島田君、ありがとう」
「…どういたしまして?」


世界で一番優しい高尾君、大好きだよ。


「高尾君っ」
「…なに?」


クラス分の教科書に手を伸ばそうとした高尾君の腕を掴む。本当に、ずっと息苦しくて仕方がないんだよ。


「助けて、」

「…勿論」


そういって笑った高尾君は、私が憧れている、好きでたまらない太陽のような笑顔だった。



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