時計は午後六時半を指す。「部活はでて」というありがたい雫ちゃんの申し出によりこんな時間になってしまった。
とりあえず、学校近くの小さな喫茶店に向かい合わせに座って適当にアイスティーでも頼む。


「ごめんねこんな時間で」
「いや、いいの」


アイスティーの氷がゆらりゆらりと揺れて味を薄めていく。まぁ、飲む気なんかないんだけど。


「お父さん、なんで嫌なの?」


雫ちゃんも俺の聞きたい事はわかってる。なら回りくどい会話なんて要らない。時間も時間だから早めに聞かないといけない。


「…否定されるからだと思う。昔からずっと否定させてきた、くだらないって言われて、つまらないって言われて、怒られて……子供みたいだけど、お父さんに怒られるのが嫌なの」


少しだけ声が震えている。そりゃあそうだよな、嫌な事を他人に話すのは怖い。嗤われるのは誰だって嫌だ。


「わかった。…雫ちゃんはどうしたい?」


雫ちゃんは不器用で狡い。こんな事一切雫ちゃんはわからないけど、俺の惚れた弱味につけこんでは何も教えてくれずにはぐらかす。

ならば俺は甘やかす。


「……どうしたいんだろ、認めてもらいたいのかな、今の生活が素晴らしいって」
「…よしわかった」


簡単だ。今の俺は最低な奴、というか建前も理想も制御も無い。ただ門田雫好きなだけの男子高校生だ。


「俺にお父さんと話させて、日曜日」
「………え、えええ!?」
「駄目?」
「いや、駄目っていうか、迷惑になるし…」
「迷惑かけてよ」


頼られてるって実感できるじゃん?


「というか、優しいね!駄目だよ、お父さん面倒くさいし…」
「別に俺優しくないよ」


ただ雫ちゃんにいいところ見せたいだけだしね。


「ほんと、いいって、流石に家族に説得とか…」
「だって雫ちゃん困ってるじゃん」


好きな子が困ってたら助けるのが普通だろ。


「あー、もう!!高尾君、なんでそんなにしてくれるの!!」
「好きだからに決まってるじゃん」
「……は?」


「そんなの雫ちゃんが好きだからに決まってるじゃん」


好きでたまらないからに決まってるじゃん、ねぇ?



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