「今日はお疲れ様でした。予想を遥かに越えるお客様がいらっしゃいましたので、とても大変だったでしょう。明日は二日目という事で、お客様は少なくなると考えられますが、気を引き締めて頑張りましょう」


模範解答の様な挨拶に、皆は緩く拍手をして文化祭一日目が終わった。


「…随分と大人しいな」
「…まあねー」


執事服やらメイド服からジャージに着替えた生徒が明日の仕込みを初めてる。明日はお客が減るから量はあまり要らないだろう、汚れたテーブルクロスを替えながら真ちゃんを見れば床を丁寧に拭いていた。床も食べこぼしやらで汚れているので結構片付けに時間がかかりそうだ。


「何を悩んでる」
「……好きな子のさあ、」


彼女の笑顔はなにより美しかった。胸が締め付けられてきゅうきゅうして何も考えられなくなった。これが恋だな、って全身全霊で思ったのは初めてだった。


「苦しい笑顔って、最高に死にたくなるね」


我慢して笑う、その表情は、自分が何もしてやれないと理解するのに十分で、なにより無力だという事を突きつける。
情けない、結局はまた彼女は笑わないまま恐怖も苦悶も封じ込めて吐き出さない。笑うしかない状況に立たされる。


「俺何したらいいんだろう」
「何をいってるんだお前は」


ああそうだね真ちゃん、何いってんだろうね俺、ずっと何もしてないじゃん、雫ちゃんが頑張るのを見てただけ、隣にいて思い上がっただけ、


「常に行動しては状況を悪くし良くしはお前の十八番だろう?」
「……は?」
「頼んでもいないのにずかずか人の内に入ってきては無茶苦茶にして帰る、気づけば正しい事を手を挙げて発表をする、いち早く門田の異変に気づくのもお前だし誰よりも門田の事を気にしすぎて頭おかしくなるのもお前だろう?」


床を丁寧に吹き終わった真ちゃんが雑巾をバケツに突っ込んだ。


「それともなにか?門田の別の一面をみて怯えたか?今更そこまで好きじゃなかったか?」


ニヤリと笑った緑間はやっぱり安定の男前だった。


「…まっさか、俺が雫ちゃんにそんなにベタ惚れしてないとでも?」
「お前のせいでこっちノイローゼになりかけたんだ、意地でも地の果てまで追いかけてもらわないとむかつくのだよ」


門田には可哀想だがな、なんて言葉は無視してテーブルクロスをひいた。



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