そういえば私は無表情で暗い女の子だったな。

『暗い』『暗い』
『気持ち悪い…』
『笑わないの?』
『面白味がない』
『一体なんなの』
『空気読めない』
『雰囲気壊れる』

そんな事言われたって、私は馬鹿だからわかんないよ。


「写真いいですか!?」
「………え、」


短いスカートに着崩したシャツ、身を覚えのある顔。
冷や汗が流れる。知っている。多分向こうは気づいていない。でも、

私は覚えている。


「一枚だけでも!」
『てめ、暗いんだよ、先生に媚び売ってんじゃねーよブス』

「ポーズとかは!?」
『おい邪魔、陰気くせー面なんだよ』

「あ…」


いやだ、ごめんなさい、でも怖いの、思い出したくないの、今の綺麗な思い出だけでいいの。


「すみません。うちのそういうサービスやってないんでー」
「一枚!メイド喫茶じゃ撮れないんですよ!!」
「お願いです!!一枚!一枚だけ!!」


高尾君が然り気無く腕をひいてくれたが集団は収まらない。なんで私なんだ、また私なんだ。
迫り来る元同級生に目眩がする。否定したじゃん、やだよ、やめてよ、こないでよ!!


「高尾く…」
「駄目です!!」


高尾君が私の腕を掴んで走り出す。縺れそうになる足を必死に動かす。高尾君の背中があまりにもかっこ良くて泣きそうになった。
南校舎に入って高尾君の半歩後ろを歩く、まだ混乱した頭がぐるぐる回る。それでも言わないと、伝えないと、


「…雫ちゃん」
「ありがとう高尾君」
「ファッ!?」


まだ息が絶え絶えで苦しい。だめだ、変な勘違いを与えちゃだめだ、心配そうな顔の高尾君にちゃんと話さないと、


「…園路中学、私の出身校だから、知り合いがきてちょっと嫌だった、相手は気づいてないみたいだけど…」


声がどんどん小さくなる。怖い。もしもが怖い。もし、今、手が離れたら泣くかも知れない。優しい高尾君が良い。軽蔑なんてされたくない。認めてほしい。並んで歩きたい。理想を求めたい。友人でいたい。好きでいたい。


「雫ちゃん」
「…なに?」
「目を閉じて」


心臓がドクドクと激しく血を巡らせる。高尾君は私を見捨てない。見捨てない、見捨てない、見捨てない。見捨てないで、高尾君はそんな人じゃない、怖い。


「今、雫ちゃんは道の真ん中にいます」
「……」


高尾君が好きで好きで仕方ない。多分、高尾君は何も思わない、だけど、少しでも良い子でいたい。いじめられていたというレッテルがもし付いたら、なんて、


「そこに、三好の服装の池田先生が全速力で走り去っていきました」
「ぶふうっ!!!!」


高尾君は私の予想斜め上をいった。
池田先生の全速力は私ぐらいの速さだから余計に笑える。

馬鹿だなあ私。何回心配になって何回不安になるんだろ。でもそうするしかないんだよ。高尾君は憧れすぎるんだ。


「何回もいうけど雫ちゃんは笑った方が可愛いからね」
「ひ、ふっ……それは、やっぱ、…照れる」


こういう事さらっといって、ほんとやだなあ、また高尾君の優しさに期待する。それがいい、優しさでずっと酔っていたい。
照れた顔を隠すように高尾君から看板を奪った。


「あら、雫、今お店番じゃないの?」


絶望的な声と共に


「…お母さん、」
「あ、雫ちゃんの……お母さん!?」



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