「美亜文化祭の用意しなきゃいけないんだけど」
「ごめんね」


こういう話に音楽室はもってこいだ。…と高尾君がいっていた話がする。

正直、言いたい事はちゃんと固まってないし、美亜ちゃんを不快に気分させてしまうかもしれない。
それでも、彼女には言わなきゃいけない事がある。


「ごめんなさい」
「……は」

「貴方に憧れていた、幼稚園の時から、一人で輝く貴方にずっと憧れていたの。だから近づいて、好かれたくて嘘っぱちの笑顔を浮かべて、美亜ちゃんに近づいた。汚い感情でごめんなさい、それでも私は美亜ちゃんが好きだったの、認めてもらって、隣で笑いたかったの、なのに」


ごめんなさい。

お姫様みたいな容姿でそこに佇む彼女が綺麗で美しくて、薔薇に触りたかった、好奇心で棘に触れたい、そんな感情でいた。
きっと彼女はわかっていたんだ。私がそんな汚い感情で近づく事を、そしてそれから逃げようとした事も全部、全部。

憧れだった、悔しかった、嫉妬だった。華のように柔らかく笑う彼女が羨ましくてしょうがなかった。高尾君に相応しい彼女が憎かった。
私は美亜ちゃんみたいになりたかった。なりたくてなりたくて、でもなれないそんな大きな目標が怖くて逃げて逃げて。


「なんでよ」


ぽたりと地面に水滴が落ちた。


「美亜ちゃ、」
「なんでよなんでよなんでよなんでよなんでよなんでよ!!」


どこかでわかっていた。美亜ちゃんは仮面を被って生活してると、偽って偽って完璧な三好美亜を演じていると。
そしてそれが目の前で割れた事もわかった。


「なんで貴方が謝るのよ!!だからあたしは、あたしはこんなに苦しい思いをするんだ!!全部全部貴方が悪いのよ!!あたしの事何も悪くないみたいに甘やかす貴方が!!」
「…美亜ちゃんは何も悪くないよ」
「嘘吐き!!笑うな、笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな!!あたしを責めて笑う時まで笑うな!!あたしを悪いって、悪いって!!」


責めてよ。
叫び声が弱々しく弱々しくなった、涙を含んだ声に変わる。
わからない、私にはわからない、彼女がなんでこんなに悩んでいるのか、なぜ彼女が悪いのかが。
苦しい、彼女は苦しいのだ、長い時間苦しかったんだ。


「美亜ちゃん、美亜ちゃんは悪くない」
「嘘」
「悪くないよ、本当に悪くない、私は美亜ちゃんを悪い子なんて思った事ない、美亜ちゃんは何も悪くないよ」
「嘘よ、だから貴方は笑わないんだ」


あ、そうか、なんでかわからないけど美亜ちゃんは私が笑わない事に罪を感じてるんだ。ああそうか、美亜ちゃんは“それ”を罪だと思ってたんだ。


「笑うよ、ほら、ね?」


勢いよく顔を上げた美亜ちゃんは私に抱きつき泣いた。私は笑うよ、美亜ちゃん。



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