「雫ちゃん。嫌な気分になる話していい?」
「…多分、高尾君の言う事は嫌な気分にならないと思うよ」


物差しで布を計り裁ち鋏で切って行く。予算で地味なタイプしか購入できないのでリボンや装飾は全て手作業だ。
高尾君は塗っていたハケをことりとバケツに戻して細めの筆に変えていた。


「俺が口出しするのはおかしいけど三好さんは悪くない」
「………」
「間違えた、間違えただけなんだよ。だからさ、その、責めるのは、やめたげてほしいっていうか…」
「なにいってるの高尾君」
「………へ?」
「私は美亜ちゃんを悪いだとか思った事ないし、責めようとした事もないよ?」


それが気分の悪くなる話なら随分と変わった勘違いを高尾君はしているみたいだ。


「…ねぇ雫ちゃん」
「なに?」
「あのさ、三好さんと俺話したりした、勝手に」
「高尾君、高尾君の意思ならね、それは勝手じゃないよ」
「…うん、うん。…ありがとう。それで、ね。三好さんめんどくさかった」
「…そっか」
「雫ちゃん、三好さん臆病なんだって」


高尾君は優しかった。“それ”は三好さんのためなんかじゃなくって、私を救うためで、ああ、やっぱり優しすぎると心の底からわかった。


「私、美亜ちゃんと色々話してみる」
「…はー…雫ちゃん好き!!」
「恥ずかしいからやめて」
「雫ちゃん、大丈夫だよ」


そういいながら優しく私の頬を撫で、私を宥める高尾君が好きで好きで堪らなかった。
もう怖いとも思わない。



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