我が幼馴染の悪童様はそれはそれは完璧な人間だ。まず何をやらせても出来ないことはないし、顔も悪くない。猫被ってるときなんてまさに絵に描いたような優等生。まあ、個人的には猫被った真は好きではないのだけれど。

「おい、手止まってんぞ。誰のために休日ここにいると思ってんだ」
「ごめんって、少し真のことを考えてただけ。すぐに勉強に戻るよ」
「……バァカ」

真は指を挟んでいたページから読書に戻った。テスト前なのにこの余裕は羨ましい限りだ。
真に教えてもらっているからテストの点はそれなりにいいのだけれど、真みたいに余裕かましてたら絶対赤点のオンパレードになってしまう。
真が通うのは、偏差値の高い進学校。この辺りで一番偏差値が高いであろうそこの首席をキープし続ける真は化け物だとしか思えない。
シャーペンで英文を訳しながら、ちらりと視線を真へ向けた。真はつまらなそうに活字を追っている。本読む姿が私は一番好きだ。バスケをしているときも好きだけど、読書をしているときの真のほうがかっこいい。
こっちが勉強してるときにその顔は卑怯だと思う。私に勉強させる気があるのかないのか。
多分前者で、やることがないから本を読んでいるんだけなんだろうけど、本を読んでいる真の顔が見たくて仕方なくなるからやめて欲しい。
真は無自覚で、気付いてすらいないんだろうなあ。そんなことを思いながら長文読解に苦戦していると、真がいきなり立ち上がった。
ミニテーブルの上に読んでいた本を置いて、私には目もくれず部屋を出て行く。トイレにでも行くのかな。まあすぐ戻ってくるだろう。真が帰ってきたら、この問題どうやるのか聞いてみよっと。
そう思って次の問題、次の問題と問題を解くけど真は帰ってこない。いくらなんでもトイレにしては長すぎると思うんだけど……。
まさか帰ったとか? でも本を置いて帰るなんてありえないしなあ……。
一度気になると課題に集中できなくなって、こんこんとテキストをシャーペンで叩くばかり。これじゃあ真に怒られちゃうなあ。そう思ってもやめられないものはやめられない。
とうとうシャーペンを机に置いたとき、きいっと小さな音がして部屋のドアが開いた。

「ちょっと休憩にするぞ」
「わ、ミルクティーだ!」
「さっさと机の上片付けろバァカ」

口はちょっと悪いかもしれないけど、真はとても優しい。
だって自分はコーヒーを飲むのに、私には手のかかるミルクティーを淹れてくれるんだもの。
テーブルの上に置かれたマグカップを両手で持ち上げて、中のミルクティーを一口。いつも通りの甘さと、ミルクの味。それから真の優しさが体に染み渡って体が内側からぽかぽかと暖かくなった。

「おいしいね、真」
「そーかよ」
「うん、そうだよ」

笑いかければ、真はぷいっと顔を背けてしまった。その耳が赤いの、隠せてないよ?
私にはとびっきり甘い幼馴染様の頬にちゅうっと唇を押し当てた。その瞬間顔を真っ赤にして私を見る真がどうしようもなく愛おしくて、もう一度頬へキスをした。
知ってるよ、真が私のために色々してくれてること。ミルクティーに入れる砂糖の数だって覚えてくれてる真のこと、大好きだよ。
甘い甘いミルクティーの甘さは、きっと砂糖の甘さだけじゃない。ゆらりと揺れた水面で、私と真がいつものように笑っていた。