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日曜日のお昼過ぎ。 昨日と同じ時間に、昨日と同じように眼鏡をかけた家モードのまま参道をウロウロしていると、例の胡散臭い男に会うことが出来た。
「へえー、で、告白の記憶を消しておめおめと引き下がってきたってわけ?」 「はい。」
男はだるそうな目でこちらを見ながら、煙草の煙をプイーッと口の端から出す。
「いやー、期待はずれだったわー。つまんねーなー、女子高生!」 「スミマセン。で、これなんですけれども、、、」
ポケットから指輪を出し、男に差し出す。
「お返しします。」 「はいはい。返してもらいますよー。次はもっと度胸のアル子に渡すとするわ。」 「それで、あの、、、」 「は?何?まだなんかあんの??」
明らかに、もうお前には興味ないよと言わんばかりの態度の悪い男に、ちょっと怯んだりもするわけだけれど、こればっかりは譲れない。
グッと指輪を握った手に力を込めて、ありったけの勇気でお願いする。
「それで、、、最後にこれで、この指輪に関する記憶を消して頂けませんか??」
男は心底呆れたという顔をして、わたしの手から指輪をつまみ取る。
「なんだそれ。失敗した告白をなかったことにしたいってわけ?あっきれたねー、なんなのお嬢ちゃん、、、」
そう言われるのは、わかってる。確かにわたしはずるい人間だ。 でも、一晩、寝ないで考えた結果がこれだ。
「お願いします。どうしても、そうして欲しいんです。」 「で、どうするわけ?忘れたところで、お嬢ちゃんの恋が実るわけじゃねーでしょーに?」 「でも、でも、、、そうすれば、ちゃんと告白して、ちゃんと振られることができます!!」
男のくわえていた煙草から、ポロッと吸い殻が地面に落ちる。
「はい?」 「えっと、だから、、、指輪のことがなかったとしても、わたし、夏休み中にはきっとササヤンくんに告白するつもりで、」 「、、、それで?」 「それで、、、だから、今度は失敗しても消せばいいや、なんて風じゃなくて、きちんと想いを込めて、しっかりと自分の気持ちを伝えたい。ササヤンくんが夏目さんのことを好きかどうかなんて、確かめなくていい。ただ、自分の気持ちを伝えたくって、あの、その、、、」
もう、自分でも、何を言ってるんだかよくわからない。 それでも、頭を下げることを止められなかった。
ポン、と頭を触られた感触で上を見上げると、胡散臭い笑顔をさらに胡散臭くした男がわたしの頭をポンポンと叩いている。たまに、コツッと小さくて固いものが当たる感触。男の右手には、例の指輪がはめられていた。
「お嬢ちゃん、いい夏休みを。」
(end) →次はあとがきです。
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