der heilige Punkt | ナノ



04
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明るい雨がこんなにたのしくそそぐのに
馬車が行く 馬はぬれて黒い
ひとはくるまに立つて行く
もうけつしてさびしくはない

なんべんさびしくないと云つたとこで
またさびしくなるのはきまつてゐる
けれどもここはこれでいいのだ
すべてさびしさと悲傷とを焚いて
ひとは透明な軌道をすすむ

ラリツクス ラリツクス いよいよ青く
雲はますます縮れてひかり
わたくしはかつきりみちをまがる

***

今日も雨。今週末にはレポートを提出しなければならないというのに、まだ題材すら決まらない。

や、もちろん、手元にあるこの本で書ければそれにこしたことはないのだけれども、読んでも読んでも、何が何やら。そういえば、初っ端に書いてあった。これは「心象スケッチだ」と。目の前にある風景だか、過去の記憶だか、思いついたことだか、全てが曖昧な形で共存しているせいで、読んでるとこっちまで、どこまでもぼんやりとしてしまう。

「、、、だいたい、ラリックスってなんなんですか?」
「え?」

誰に言うわけでもなくつぶやいた言葉を聞き返され、ドキッとして振り返ると、図書委員長(あれ、違うんだっけ?)が、すぐ後ろにある雑誌コーナーの入れ替え作業をしているところだった。

「あ、スミマセン。なんでもないです。」

勢いで謝ってみたものの、お互いビックリした顔で目を合わせたままなんとなく視線を外せずにいる。ああ、ちょっとこういうのめんどくさいかも。独り言なんだから聞こえないフリしてくれればいいのに。

そんなことを思っていると、図書委員長が古い雑誌を両手に抱えて立ち上がり、バサッと机の上に下ろすと口を開いた。

「カラマツのことですよ。」
「え?」
「針葉樹でそういう木があるの。紅葉して、冬には葉を落とすんです。」
「はあ。」
「小岩井農場の所を読んでたんですね。わたしも、それ好きです。」

それだけ言うと、彼女はまた雑誌を抱え直して、カウンターの方へ歩いて行ってしまった。

図書の先生が「設楽さーん、今度はこっちー。」と彼女を呼んでいるのが聞こえて、そうだ、彼女は設楽先輩っていうんだった、と思い出す。昨日も同じことを思ったはずなのに、今の今まですっかり忘れてた。

好きだっていうくらいだから、設楽先輩にはこの詩の意味がわかってんのかな?どうせなら、レポート代わりに書いてくれたらいーのに。

チラリと時計を見ると、まだ三十分くらいしか経っていない。悠太達が迎えに来るまで、まだまだ時間だけはたっぷりあるわけで、、、とりあえず、植物図鑑でカラマツとやらを調べてみようか。


「わたしもそれ、好きです。」と、彼女は言った。

「オレも好きです。あんまり意味はわかんないけど。」なんて言ったら、バカにされそう。だから言わない。

ふと窓の外を見ると雨が小降りになっている。
明日は久しぶりに晴れてくれたらいいのに、なんて。


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