der heilige Punkt | ナノ



03
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結局、昨日はあれから一時間後、読んでるんだか読んでないんだか、半分寝てるんだかってな状態でゴロゴロしていた浅羽くんを、眼鏡の要くんと、双子の片割れ、そして可愛らしい髪の長い男の子が迎えにきた。

キミちゃんが貸し出し処理をしているのを横からこっそり覗き見したところ、レポートを書かなくてはいけない方の彼は、どうやら弟の祐希くん。

そういえば、貸し出した「春と修羅」に、蛍光色の付箋紙が一枚挟んであるのがチラッと見えたのだけれども、いったい彼はどこに貼ったんだろうか?宮沢賢治と浅羽くんに、共通点がまったく見出せないのだけれども、どこいらへんが彼の心の琴線に触れたのか。ちょっと気になる。

ちょっとだけね。


ホームルームが終わり、事務室にキミちゃんに頼まれていた文房具の補充品を取りに行った後、図書室へと行くと廊下まで聞こえる話し声が。昨日と違って、図書室は大繁盛のご様子です。

ちょっと入りにくいなあと思いながらそっと扉を開け中を覗くと、そこには昨日の面々が、カウンター前の席を陣取ってキミちゃんとおしゃべり中だった。

「それでね、妹のトシと賢治ってのが恋仲だったんじゃないかとか、農学校の後輩と恋仲だったんじゃないか、とか、」
「近親相姦に同性愛ってことですか?そりゃまた、ずいぶん不穏な。」
「そうそう。まあ結局は生涯独身で37歳の若さで亡くなるんだけれどもね。」
「そういえばボク、宮沢賢治って童話作家だと思ってました。」
「そうねえ、有名なものには童話が多いわよね。詩人ではないし、そもそも人に見せる作品としては書いていなかったと思うわ。」
「じゃあ、やっぱりレポートに使うには難しいんじゃねーの?だから適当に選ぶなって、」
「そんなに言うなら、要が選んで、要が書いてよ。」
「はあ!?なんでオレが書かなくちゃなんねーんだよ!」
「まあまあ、要くん、そんなに大きな声ださないで、、、」

、、、それにしても、キミちゃんの宮沢賢治に関する小話の九割がゴシップというあたり、非常に残念。もっとレポート作成に役立つような話をしてあげて欲しいもんです。

キイッ

扉の閉まる音に気がついたのか、双子の一人がこちらを振り向いた。

「あ、、、ども。」

わたしの顔を見て軽く会釈をしてくれたということは、たぶん昨日少しだけれども会話をした弟の祐希くんの方だな、と勝手に決めつけながらこちらも会釈。

すると、もう一人の浅羽くんが不思議そうな顔をして口を開いた。

「祐希、知り合い??」
「知り合いというか、、、昨日この本のカバー貼ってた先輩。図書委員長?」

いやいやいやいや。委員長じゃないから。

「えーと、委員長じゃないですが、カバーは貼りました。」

とりあえず、カウンター内に入るきっかけにはなって助かったなあと思いながら、カウンター前に群れる男子生徒をかき分けてキミちゃんの隣の席につく。

「ま、とりあえず、今度こそ書きやすそうなヤツ探しとけよ。」
「だから、要が探して要が書けば、」
「アホか!!」
「そうそう、祐希がもらってきた課題なんだから、自分でなんとかしなさいね。」
「じゃ、ボク達部活がありますのでこれで。祐希くん、がんばって下さい!」
「あー、うん。」

相変わらず覇気のない祐希くんを残しみんなが図書室から出て行くと、一気に静かになってしまった。キミちゃんも少しさみしそう。「めずらしく大繁盛だったね。」と小声で耳打ちすると、「図書館教諭として、文学的なアドバイスをバッチリしてやったわよ!」と自慢げ。なんて残念な図書館教諭だ、、、幼なじみながらガックリですよ、わたしは。

で、祐希くんはというと、こないだと同じ席に座り、新しい本を探す様子もなく相変わらず「春と修羅」をぼんやりと眺めている。

あれでレポートを書くのは、さぞかし大変だろうなあ。要くんが言う通り、もっとわかりやすい物にすればいいのに。

そんなことを思いながら、もらってきた文房具を補充棚につめる作業に没頭していると、ふと「春と修羅」の冒頭が頭に浮かんだ。

***
わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
***

開始三行で、すでに迷子になりそうだ。


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