der heilige Punkt | ナノ



01
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「雨ですねえ。」
「雨だわねえ。」

シトシトと雨が降りしきる放課後の図書室。小さな頃からお世話になっているお隣のお姉ちゃん、かつ、高校の図書館司書教諭であるキミちゃんとカウンターに並んで、本の修繕をしている。いわゆる図書委員、みたいな。

「ねえねえ、キミちゃ、」
「香坂先生。」
「ええー?」
「学校では、ちゃんと"香坂先生"って呼んでください。」
「、、、香坂先生。」
「はい。なあに?」
「放課後の図書室って、誰もこないんですね。」
「今日は、たまたまよ。」

そうかなあ、さっきから誰も来ないけれどもなー。ハードカバーの表紙にビニールのシールシートを貼りながら、雨の音に耳を澄ませる。

タタン、タタン、と、窓の外にある銀杏の葉っぱに雨が当たる音がする。5月。新緑が綺麗な季節だ。生命力に満ち溢れ、眩しい季節。わたしもぜひともあやかりたいもんです。


カチャッとドアが開く音がして、入り口を見ると、男子生徒が2人連れ立って図書室に入って来た。

「ほら、早く選んで帰ろうぜ。」
「そう言われましても。何を選んだらいいのかすら。」
「はあ?!課題、具体的に先生に出されてんだろ??」
「えーと、、、現代詩?だっけ?」
「知らねえよっ!オレに聞くなよ!!」

前のめりな眼鏡男子と、眠そうな顔のイケメン。
あ、あの子知ってる。二年生の浅羽くんだ。ただでさえ綺麗な顔をしているうえに、なんと双子だったりするので、それはそれは目立つわけで、、、目の保養というか、見かけるとちょっと得した気分になるくらいのレベルなので、うちの学校の女子の間で知らない人はいないんじゃないだろうか。

彼はどっちなんだろ?お兄ちゃんの方?弟の方??

「あのー、、、」
「はいっ!」

浅羽くんだ、浅羽くんだとホクホクしてたところに急に不意打ちで声をかけられ、二の腕のあたりがビクッとはねる。顔をあげると、浅羽くんがジッとこちらの手元を見ていた。

「それは、、、詩集ですか?」
「え?これ??」

わたしの手元には、補修したてのハードカバー。くるっとひっくり返して表紙を見ると、宮沢賢治の「春と修羅」だった。

「そう、、、ですね。詩集です。」

わたしがあたふたしながら答えると、彼は無言のままスッとカウンターの上に手を伸ばした。

細くて綺麗な指。

そんなことを思いながら、こちらからも手を伸ばしてその本を手渡すと、浅羽くんがカウンター前でペラペラと本をめくる。

「おい。そんな適当に選んでいーのかよ?」
「いーんじゃない?どれも一緒だよ。」
「、、、えーと、レポート?ですか??」
「あ、こいつが現国の宿題を連続で忘れてきてて、先生から課題出されてるんです。」

眼鏡くん(失礼なネーミングだけれども、ほら、名前わかんないし)が、浅羽くんのことを指差しながら憎々しげに言う。めんどくさそうにしながらも、こんなとこまで着いてきてあげてるんだから、きっと、仲良しなんだろうなあ。

「じゃ、とりあえずそれで使えそうなところに付箋でも挟んどけよ。」
「あ、うん。」
「生徒会終わったら、また来るから。それまでには終わらせろよ。」
「うん。」

眼鏡くんは、子供に言い聞かせるような口ぶりで浅羽くんにそう言うと、そのままバタバタと図書室を出て行った。

へえ、生徒会役員なんだ。眼鏡は伊達じゃないなあ。などと思いながら彼が出て行くのを見送った後、ふと前を見ると浅羽くんと目が合ってドキッとする。そのまま無言というのもなんなので、なんとなく話しかけてみたりして。

えーと、えーと、、、

「いい人ですね。」
「え?要が??」
「うん。要くんっていうんですか?」
「、、、別に普通の人じゃないですかね。」

浅羽くんはそれだけ言うとプイッと目線をはずし、がら空きの座席に荷物を置いてから自分も横に腰を下ろすと、詩集を大して興味もなさそうな様子でペラペラとめくりはじめた。

ちぇっ。愛想のない子だ。

それに、その本は、たぶん君にはまだ早い。


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